529豚 悪魔の牢獄《デーモンランド》の出現

 ――悪魔の牢獄デーモンランド上層に生きるモンスター達。特に地底の翼シャドウ・フライヤーから手荒い歓迎を受けた俺たちを待ち受けていた真実は、なかなかに過酷なものであった。


「……」


 見るも無惨な光景が、森を抜けた先の草原地帯に広がっていた。

 豊かな草原の広がるあっち側は、ヒュージャック領地だ。既に国としての体制は崩壊しているが、それでも俺にとっては……ここから先はヒューシャック領地だ。


 そんなヒュージャック領地とサーキスタ領地の国境線上に、かなりの数の死体が転がっていた。圧倒的に多いのは魔物だが、ちらほらと人間の姿も見える。勿論、共に死体だ。

 割合で言えば魔物が100に対して、人間は5。


「――ひい、ヒい! 嘘だ嘘だ嘘だ! 死んでる! 死んでるじゃないか!」

 

 ライアー・タイソンに率いられ、ヒュージャック奪還に燃えていた彼らの一部は既に大地に沈み――もはや、生きてはいない。

 その姿を見て、動揺するなという方が無理があるだろう。


「俺たちはライアー様を連れ戻すってだけだと――! リオット様、やめましょう! 余りにも危険過ぎます! 戻って、応援を呼びましょう! 大迷宮と呼ばれる悪魔の牢獄デーモンランドの顕現なんて、俺たちの手には追えませんよ!」


 特にリオットが連れてきた兵士たちの動揺が激しく、彼らはヒュージャック領内への侵入を明らかに拒んでいる。恐怖によってだ。自分も草原を赤で彩る死体になるんじゃないかと、嫌な未来を想像しているせいだ。


 全てはヒュージャック領内に出現してしまったのだろう悪魔の牢獄デーモンランドに対する恐れが原因だ。気持ちは、わかる。

 サーキスタの民にとって、悪魔の牢獄デーモンランドという迷宮の名前は、とてつもない恐怖を引き起こすモノだから。

 俺もつい最近、悪魔の牢獄デーモンランドに潜ったけれど、俺でさえ中層までが限界だった。下層には一体どんな化け物が蠢いているのか。


「冒険者だ! 冒険者がいい! あいつらが適任だ! 地上に現れた迷宮の入り口を塞ぐことは、冒険者ギルド連中の専売特許だろう! すぐに自由連邦の冒険者ギルド総本部に連絡を! あそこには、S級冒険者のギルドマスターがいるって話じゃないか!」


 ライアー・タイソンが連れて行った四千の精鋭軍勢と違い、彼らの中には碌な戦闘訓練を積んでいないものたちも混じっている。

 だからこそ、あんな情けない反応は無理もないのだが。


悪魔の牢獄デーモンランドだ、悪魔の牢獄デーモンランドだぞ! あの冒険者ギルドでさえ、高位冒険者セカンドランナー以外の探索を許していない極悪の迷宮だぞ!」

「俺たちに、迷宮の入り口を閉じられるわけがねえよ!」


 リオットに連れられた彼らもとっくに気づいている。

 タイソン領地の森林中に侵入を果たした魔物の中には、悪魔の牢獄デーモンランドの上層部でよく出てくるモンスターが混じっていた。既に地獄の蓋が開かれているのだと。


 つまり――悪魔の牢獄デーモンランドがヒュージャックに顕現したのだと。


「黙れ黙れよ! 俺たちがここで逃げたらどうするんだ! 悪魔の牢獄デーモンランドから溢れ出たモンスターが次に狙いのはどこだ! 俺たちの領地だ!」


「放っておけば、俺たちの家族が、子供達が、襲われるんだぞ! 時間が立てば、中層からさえ強力なモンスターが現れる! 今なら俺たちの力でも――!」


 だが、彼らもまた分かっているのだ。

 このまま悪魔の牢獄デーモンランドの入り口を放っておいたら、未曾有の大災害を引き込こす未来を、よく理解している。


 悪魔の牢獄デーモンランドの地上顕現なんて、本来であれば国家レベルで対処すべき案件だ。

 それに、悪魔の牢獄デーモンランドという脅威に常に晒されてきたサーキスタの国民であれば、誰もが理解していた.どれだけ絶望的な状況にあっても、引いてしまえば彼らが大切に思う者達に――悲劇が待ち構えていると。

 

 口々に好き勝手叫ぶ兵士たちを、あいつらの指揮官たるリオットは放っていた。

 リオットには、リオットの考えがあるんだろう。


「――弱音を吐くな! 俺たちだけじゃない.この魔物の死骸を見ろ! ライアー様達はとっくに戦いに出向いている! ヒュージャックに悪魔の牢獄デーモンランドのモンスターが這い出して来ているなら、加勢が必要だ! 違うか!」



 迷宮の入り口が地上と繋がった――しかも迷宮はあの悪魔の牢獄デーモンランド

 これは、時間との勝負だ。

 将来に起こり得る悲劇を理解しているからこそ、逃げ出すものは一人もいなかった。


 覚悟のある連中が揃っている――良い人選だ、リオット.


 俺は心の中で感嘆の声を上げて、馬を降りる。


「よいしょっと、ブヒイっと」


 俺は馬から降りて、草原を見渡していた高位冒険者セカンドランナーの男に声をかけた。すぐ後ろにリオット・タイソンの姿もある。リオットも俺と同じ考えなのだろう。


 無表情を貫いている火炎浄炎アークフレアの隣に立ち、声を掛けた。


火炎浄炎アークフレア。死者を弔ってくれないか」


「……言われるまでもないわね」


 果てなき草原に向けて、背中に焔剣フランベルジュを担いだ大男、火炎浄炎アークフレアが剣が抜いて、構えた。


 アニメではシューヤの師匠となるべき男の良いところは、迷いがないところだ。


「全部、燃やすけど、いいわね? 骨も残らないわよ?」

 

「ああ。やってくれ、火炎浄炎アークフレア。一応聞いておくけど、リオット。お前も異論はないな?」

 リオットが首を振ったことを確認し、次の瞬間。


 草原が甚大な黒炎の熱波に包まれた。



――――――――――――――

ペンネームを変更しました。

渋谷ふな、の名前で今後の創作活動を進めて行こうと思います。。。

※水面下で頑張っていて色々お伝えしたい情報がありますが、まだしばらくお待ちください。。。


 

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