第13話:最強VS最凶
ジン・スーラはゆっくりとした歩調で、特に何かを構える訳でもなく、両腕をだらんと垂らしたまま、ジン・ガインに向けて間合いを詰めていく。
「一気に懐に飛び込みたいが、そうはさせてくれそうにないな」
バッドはジン・スーラの背中に伸びる6本の腕を警戒し、太刀を構えて間合いを保つ。
不意に、ジン・スーラは身をかがめると、一気に跳躍、ジン・ガインの懐に飛び込んだ。
「ち!」
両腕でジン・ガインの首を絞めようと伸ばした腕を、バッドは太刀で捌く。
とっさに跳びずさり、間合いを作ろうとするが、今度はジン・スーラの六本の腕がジン・ガインの肩と腰に絡み、身動きを封じてしまう。
「くそ、やりにくい! マナクリ、ベニ、まだか……」
ジン・スーラは大きく咆哮すると、耳まで裂けた口蓋を開き、ジン・ガインの首に噛みつこうとする。
あくまで急所を狙うジン・スーラ。バッドは太刀の柄をジン・スーラの口に突っ込むと、思い切りひねる。
動揺した一瞬の隙を突きジン・スーラの鳩尾に膝蹴りをかまし、無理矢理引き離すと、ジン・ガインは太刀を打突の構えに据え、急所に向けて狙いを定める。
「ユリス、ジン・スーラの修理は出来るか?」
「まあ、出来ないことはないけど、あまり派手に壊さないでくれよ?」
「どうやら無傷では止まってくれないようだ……一か八か、急所を突いてパイロットを気絶させる!」
そういって、バッドはジン・ガインを跳躍させ、打突の間合いを取る。
「悪いが、眠ってもらう!」
ジン・ガインの太刀がジン・スーラの急所を突こうとしたその瞬間。
「やめんか、馬鹿者が!」
不意に、バッドのインカムにマナクリの声が響く。
「マナクリ?」
バッドはジン・ガインの太刀を放し、打突をかろうじて回避する。
勢いそのまま、ジン・スーラにタックルするジン・ガイン。
ジン・スーラはそれを受け止め、二体の機神が重なり合う。
「バッド、この馬鹿者が……我がこのような機械人形に取り込まれるとでも思うたか!」
「ご主人様、何とか……機体のコントロールを取り戻しました」
ベニがそう言うと、ジン・スーラは背中の6本の腕を背面ユニットに収め、行動を停止し、コクピットのハッチを開いた。
「マナクリ、機体に取り込まれて……大丈夫か?」
「バッド、この機体なかなかの怨念を抱いておるぞ、まさに我が乗るにふさわしい機体だ。これから先、思うさま使わせてもらおう、ただ……赤毛の戦神はどうする、我と共に乗るとは思えぬのだが」
マナクリの言葉に、ベニは動揺を隠せない様子で震えていた。
「ベニ……」
「……乗ります、私はご主人様のお役に立ちたいから」
「ならば問題ないな、ジン・スーラ、使わせてもらう!」
ベニの動揺も気にせず、高らかに笑うマナクリ。
「ふー、一度はどうなることかと思ったけど、何とか収まったみたいだな、カタリーン……データは?」
「ばっちり……でもこれがこの機体の真価とは思えない……」
「つまり、それほど強いって事か、堪らねーなー、今夜は徹夜でオーバーホールだ!」
「僕も付き合う……よ」
ユリスの興奮はメカフェチ故、感情的だが決して裏切らない仕事をする、カタリーンと共にこの世で最も頼もしい技術者だ。
「ふう、何とか収まりましたね……」
後衛のフルカが安堵のため息をつく。
「マナクリお姉ちゃんも家族になったてことか?」
ウルカが訪ねる。
フルカはニッコリ笑うと、無言で頷いた。
「やったー! 新しいお姉ちゃんだ!」
ジン・アニマのコクピット内。
ウルカは心の底からの喜びではしゃぐ。
「わっぱ!」
「おう!?」
「今度、稽古をつけてやる。子供であろうが関係ない、我が家族であれば強くて当たり前だからな」
「おお……」
そんな女神たちのやりとりを聞きながら、バッドは安堵のため息をつくのであった。
超常機装テンガイン 神楽坂 幻駆郎 @kagraya
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