第3話


私達は未だに一限の専攻授業を取っている。普段あまり顔を見せない上級生に下級生はざわついているが、私達は知らん顔して一番後ろに座る。光は授業そっちのけで何かを書いていた。私も授業を聞くことなく、オーウェルの1984を読み直している。ウィンストン・スミスのしていた自分の思考をノートにまとめる事。これは1984の中で禁止されていた事だ。なぜなら自分の思考を整理させないことで民衆を馬鹿にしようとしていたからである。私はレポートに言論統制に関しての反論を書き添えた。朝が早かったせいか、いつのまにか寝ていたようで私は光に起こされて席を立った。すると廊下に白岩ちゃんがおり、私達は急いでその後を追った。白岩ちゃんは食堂の入り口近くにあるカウンター式の席に座り手作りであろう弁当を食べていた。私達は少し離れた所へ座り白岩ちゃんの様子を伺った。彼女は弁当を食べ終わり、本を取り出した。するとその本は1984であった。

「1984だ!」

私は出来るだけ小声で叫んだ。

「本当だ!白岩ちゃんとノブもしかしたら趣味が合うんじゃないか?陰謀説信者だったり。」

光も私と同様に小さく叫んだ。彼女が1984を読んでいるということで、私の中で白岩ちゃんと話したい気持ちが強まった。乳首なんて正直どうでもいい。白岩ちゃんと話がしたくなった。

「光、俺、話し掛けてみようかな。」

「マジかよ。お前。我々のようなスクールカースト上シュードラの人間がバラモンに話しかけれるか?」

私はハッとした。同級生同じクラスであろうと階級に大きく差があるという現実は決して趣味では埋まらないのだ。そう、イケメンのアニメ好きとブサイクのアニメ好きが対等でないように。

「とりあえず、様子見だ。いいか我々の目的はあくまで乳首を見ることだ。余計な私情を挟むことは許されない。」

それから1時間ほど彼女は1984を読んでいた。そして立ち上がり誰かを手招きしている。その方向を見ると居たのは図書館の魔物、野田だった。

「マジかよ。」

光は例の泣きも怒りもしないあの表情になっていた。野田が、白岩ちゃんと、話している。私達はその話に聞き耳を立てようと無言で立ち上がり二人の近くにある円形のテーブルに移動した。すると野田が白岩ちゃんに1984の感想を聞いていた。おそらく彼の勧めた本なのであろう。

「あ、あの。これどうだった?」

「とても面白かったわ!!私の求めていたものはこれだったのかもしれないわね!!」

「そっか!よかった!つ、つぎは・・・」

「いいわ、もう一度読み返したいの。」

会話を聞く感じ彼女達は恋仲ではないようだ。それが分かっただけでも大分心が楽になった。しかし私は彼女が1984を読んで何を感じたのか、何を考えたのか、どこに共感し、どこに批判的であるのかという事にしか興味はなかった。当初の目的である乳首も二の次である。

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乳首と言論統制 @maso

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