第2話

次の日、一時限目の始まる時間よりも一時間半早く私達は食堂奥に集まった。学校には社会人枠で入ったのであろうおじいちゃんが居るぐらいで職員すらまばらだった。

「光、白岩ちゃんは一限は来ないんじゃないか?もう三年だし、専攻の授業はないんじゃないか?」

私達の大学では一限二限で専攻と言われる学科基礎の授業が行われる。大体の人は二年生までに単位を取ってしまうのだ。

「バカだなぁ。僕達が今からするのは部室棟の探検だよ。白岩ちゃんが着替えるであろう場所は部室棟しかありえない。下見だよ。」

そう言うと光と僕はリュックを肩に掛け、部室棟へと歩いた。私達の大学は部活動は盛んではなく、朝の部室棟は静かだった。

「光、フットサルサークルの部室はどれだ?」

「三階山側四番目」

「なんでそんな事知ってんの?」

「新歓のとき来たんだ。」

「白岩ちゃんと?」

「いや、野田と。」

聞いたことの無い名前だ。苗字の頭文字がNなので同じクラスだった筈だが。

「誰だよ、それ。」

「あのブサイクだよ。なんか謎の歌を歌ってた。」

「あー、図書館の魔物ね。」

いつも図書館で何やら変な歌を歌いながら漫画を読んだり絵を描いたりしてるギークボーイ、私達の間で図書館の魔物と呼ばれていた彼は野田という名前であるという事を知った辺りで、私達はフットサルサークルの部室前まで来た。

「それで、ここから何をするんだよ?」

「まぁ待てって。」

そう言うと光はフットボールサークルの部室の真正面にあるトイレの横に置いてある消化器を少し持ち上げその下から鍵を取り出した。そして、不敵な笑みを浮かべた光はドヤ顔でこう言った。

「不用心だよな。」

「全くだ。」

光は鍵を刺しゆっくりと回した。私はドキドキが止まらなかった。鍵が空き、光が扉を開けた。

中は意外と狭く、人が2人並んで立ったら通るのに苦労するぐらいの幅しかない。

「隠れられそうな場所は無いな。」

「前来た時はロッカーがあったんだがなぁ・・・これは難しい問題ですよ。ノブさん。」

「うーん・・・って何やってんだよ!」

「折角だから物色。」

ちょっと見るというレベルではない。光は誰かのバッグの中身を引きずり出すかのように部室を漁っていた。

「普通に犯罪だからな。それ。」

「いいから女子の匂いがしそうな物探せよ。誰か来る前に。」

私は光が金目の物欲しさに行っている犯行ではない事に少し安心したが、私は自分で自分が嫌に成った。拒みたくてもこの興奮を拒めない自分に気が付いたからだ。だが興奮とは背徳感から生まれる物である事を十分に理解している。だからこそ、私は光に続いて物色を始めた。周りに散らばったバッグに目を通してもズボラであることが周知に認められやすい男性の物しか見当たらない。偶然、目に留まった封筒に手が伸びた。開けてみるとそれは部員名簿であった。その部員名簿に目を通すと、

「なぁ部員名簿に白岩ちゃんの名前無いんだけど。」

「あら、辞めちゃってたのか。とんだ無駄足だったな。」

しかし、光はまだ物色を辞めなかった。それに続いて私も物色を始める。白岩ちゃんの物があるかもとかそんな気持ちではやっていたはずなのに、今では背徳感から来る興奮を感じる為だけにやった。

めぼしいものなどは何も無く一通り漁った後私達は部室を後にした。

「けど白岩ちゃんよく学校にいるよなぁ。」

光は怪訝な顔をした。

「俺たちみたいに単位落としまくってる訳でも無いのに何でなんだろ?」

「そりゃあ図書館で勉強とかしてるんじゃないか?」

「それにしちゃあ図書館で見かけないぜ。考えても見ろよ図書館と食堂奥。我々根暗のオアシスじゃないか。ノブと一緒に毎日のようにいるぜ。」

確かに白岩ちゃんとは、ほぼ毎日すれ違うのにも関わらず彼女が誰かと一緒に居るところやどこかで何かをして居るところを見たことがない。そのミステリアスな可愛い女子というステータスは私達の好奇心をくすぐらざる得なかった。

「まぁ白岩ちゃんの乳首を見るために次は何をするか。分かったな。」

光はそう言うが私には何なのかサッパリ分からなかったので少し考え込んだ。すると光は私の顔を覗き込み、こう言った。

「尾行だよ。彼女の行動パターンを読まなきゃ何も始まらない。」

そして私達の尾行は始まった。今となってはこの尾行が私達、いや、私の転換期になるとは思っても無かった。たかが乳首、されど乳首。

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