第14話
十四
そしてその気持ちは二年間続いた。冴子の祖母が病気になる時まで続いた。それを機に冴子は、東京から高知に戻り、ホテルの若女将として再出発する事を決めた。その事を聞いた時、博は、初めて神を恨んだ。
“僕は、素晴らしい人間じゃない。だから冴ちゃんと結婚できなくても、諦めると決めていた。しかし神よ、なぜあなたは、あんなにも純粋に学問を追及していた彼女の、その人生を奪うのか。亡くなった祖父ちゃんのような人を、助けるような研究を追及したがっていたじゃないか。なぜ、それをさせてくださらない”
二人とも、大好きなまま別れなければ、いけなくなった。博は二年後、最後の手紙を書いた。
『誰か他の人と結婚しても、君の事は、いい思い出として残っていると思う。君との時間はとても大切な時間だった。生きていく意味を考えさせてもらった気がする。心の底からお礼を言います。そしてこれには書きますね。《さよなら》』
「そうだった。素敵な恋だった」
男は、そう呟くと、もう一度写真に目を落とした。良い思い出だったのだろう…。
「焼くか」
自分に呟くように、ぼそっと言った。そして徐にライターを取り出した。しかし、
“いや、青春の大切な一ページを飾った人。どうする、いいのか”
そう思って、躊躇した。しかしすぐに行動を起こした。
“ふっ。そうか、こんなことしてたら、それこそ叱られる。『悩んでも、始まらない』って”
男は、ライターをカチッと鳴らして、火をつけた。その小さな炎を、持っていた写真に寄せた。写真は、ゆっくり、ゆっくり、燃えた。彼の思い出を、めくるように燃えていく。裏に書いてあった
『三連のネックレス、似合うでしょ♡』
と言う懐かしい文字も、燃えていった。その燃えていく写真を見ながら、ふと
“俺の親父が元気で、俺が東京で教員になっていたら、彼女とどうなっただろう”
と、つい思ってしまった。
土の上で黒い灰になった写真を、春の風が青い空に舞いあげていった。その空は、青木と行った、北陸への旅。その旅立ちの日の空に似ていた。
時間(とき)よ、二人を乗せて @yuri
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