【ダイジェスト】僕等のアホ毛が位階を駆け上がるまで(2)
■『還り着く場所』完結記念・ジルさんがジャンヌさんを復活させるまでの歴史ダイジェスト
(小説内で端折られた部分のネタバレ含む)
(前回までのあらすじ)……ジルさんがリッシュモンさんとフランスの立て直しに奔走していたその頃。
・1432年~
〈神の御剣〉のトップランカーから閑職に追いやられたプレさんは、当然そのまま大人しくしているはずもなく。
「あの吸血クソビッチ騎士……!目に物見せてくれるわ!ウリィイイイイイッ!」とばかりに、ジルさんが留守中なのを良い事にその領地があるブルターニュおよびアンジュ公国に突撃。
ジルさんの教皇庁入りを快く思わない一部の聖職者および魔術師達や、当時のブルターニュ公、フランス宮廷の穏健派閥に属する貴族等、利害が一致している相手と手を組んで、領地の乗っ取り→解体を画策。
ティフォージュ、マシュクールといった城に自身の工房を造り上げ、ルーアンでのジルさん拷問時に入手したデータを基に、「〈湖水の騎士〉たるジルの存在に頼らずとも、人間が聖遺物を扱えるようにする」という名目の下、趣味と実益を兼ねた魔術実験を開始。主に子供を中心にその魔手が伸びるようになる。
後に伝わる『青髭伝説』の開幕である。
ここから凄まじい勢いでモンモランシー=ラヴァル家の莫大な財産は群がるハイエナ達によって食いつぶされていくわけですが、この時点では、まだその汚い裏取引の存在をジルさんは知らない。
・~1440年
富と命を浪費しながら、それなりに研究自体にも真面目に取り組んだプレさんでしたが、その成果は遅々として上がらず。彼の工房が存在する地下牢は刻を重ねるにつれ地獄絵図の様相を増していく。
……そりゃあのイシュトヴァンでさえ千年以上の功夫を重ねてやっとジルさんという結果を出したのだから、1世紀も生きていない魔術師の小僧風情がどうにか出来るはずもなくて当然であるのだが。
とはいえ、自身の才能に溺れて他の魔術師達に大見得切っていた分、引っ込みがつかず、プレラーティは次第に自暴自棄になり、やがて目的と手段が入れ替わった後は、恋い焦がれたジルの存在を想いながら、退廃的な楽しみに溺れていく。
↓
・1440年7月~8月
すったもんだの挙句、アランソン公とデュノワ伯がシャルル陛下の前で土下座して、プラグリーの乱が終結。
ジルさんとリッシュモンさんがほっと一息ついたところで、「ラ・ピュセル処刑後、故郷でヒッキーを決め込んでいたジル・ド・レイ男爵がプッツンして教会で暴行事件を起こし、司教から告発された(要約)」というトンデモ情報が飛び込んでくる。
リッシュモン「……わが友よ……君が留守にしている間に領地がえらいことになっているぞ……(汗)」
ジル「ああ、私をかたる『誰か』が随分財産を食いつぶしてくれたようで、弟のルネがパニックを起こしているようですね」
リッシュモン「知っていたのか」
ジル「ええ。そろそろ教皇庁も『ヤツ』の暴走の尻拭いが出来なくなったという事でしょう。
もともと祖父が力押しで無理矢理手に入れてきた領地です。今の私にとっては何の未練もありませんが……そこで『ヤツ』がしてきた事だけは、絶対に許す事は出来ない。
ちょうど先刻、ローマから正式に私への通達がおりてきました……『ヤツ』を始末しろ、と」
この時、兄であるブルターニュ公から今回の領地割譲計画の件で協力を請われていたリッシュモンは、ジルに対して後ろめたさを感じていたのだが、ジルの方から『自分(を語る誰か、もといプレラーティ)』を始末する為の作戦にむしろ賛同する意を伝えられ、その潔さと王国に対する忠誠心に敬服する。
……この時点でアルテュールさんは将来、自分が彼に対する人身御供になるのを決意した模様。
・1440年9月~10月(35~6歳)……吸血鬼レベル320~380
ジルとリッシュモン、アンジュ公国内に位置するティフォージュ城へ兵を率いて出撃。魔術師の手によってまさに『悪魔城』と化したそこで、ジル、プレラーティと因縁の再戦。ティフォージュ城の戦い。
ジルがこの時点で吸血鬼としてかなり力を蓄えていた事、聖遺物という奇跡の欠片を手にしていた事に加え、自堕落な生活の末にプレラーティが以前よりも力を失っていたのが重なり、ジルさん無双の末、大勝利。見事、ジャンヌの敵を討ち果たす。
ジル「……貴様には天国の門は開かれず、しかし煉獄の炎ですらその罪には生温い。ゆえに喜べ。私が永遠にこの世界を引き摺りまわして遊んでやろう」
プレラーティ「…………え」
いろんな意味で高レベル廃棄物のプレラーティさん、有効活用の為、その魂ごとジルさんの中へ完全に吸収合併される。これで永遠に一緒だよ、良かったね。
これによりジルさんの魔力容量がまた一気に跳ね上がった為、事の推移にイシュトヴァンは「計画通り」とほくそ笑んだとかいないとか。
しかし、政治的な思惑からプレラーティさんによって引き起こされた惨事の事後処理や責任はそのままジルさんに押し付けられ、歴史上、この年の10月26日の時点で彼は処刑。公的に死亡した事になり、永遠に性癖四重苦の変態の汚名を着せられる羽目になる。
ジル「……ああ、これで私もやっと後顧の憂いなく、フランスの為に力を尽くす事が出来ますね」
リッシュモン「ジル…………(しんみり)」
えーと……だれか私に薄い本を(ry
↓
・1442年1月
再び、シャルルとリッシュモンに対する不満を抱く貴族達によって、王太子ルイを中心にした反乱が起こる。
例によってリッシュモンさんとジルさん、すぐに対応。謀議の噂を聞きつけて颯爽とヌヴェールに現れたシャルル陛下の姿に、イングランドと結託していたアランソン公、ショックを受ける。
ま た お ま え か。
この反乱も本格的な闘争に突入する前に収束したものの、この後も終生にわたり、アランソン公は宮廷と反発し続けるのであった……
(※『還り着く場所』最終話の集合シーンで「……政治的にも公爵にはかなり足を引っ張られましたからね……アルテュール……」とジルさんがぼやいていたのはその為)
↓
・1449年11月(45歳)
シャルル七世、ルーアンに入城。引き続きノルマンディ地方におけるイングランド軍掃討作戦を続けると同時に、ジャンヌ復権裁判の準備に取り掛かる。
ここまでの7年の間、軍制改革を本格化したり、砲兵術の改良をしたり、ブルターニュの内紛を調停したり、ひたすら働き続けたリッシュモンさん(とジルさん)ですが、ここからの5年も連戦続き。
ひたすら戦場をとびまわりながら、その鮮やかな指揮でフランス軍を勝利に導き続けているわけですから、ジャンヌ様も「仮に二人がアレでナニな関係でも、伯爵様が相手だったら認めざるを得ない」とのたまっているそうな。
↓
・1454年7月
前年53年からフランス軍によるノルマンディに対する総攻撃が開始される。
大軍団を編成したリッシュモンは、イングランド側に残された数少ない要所であるカスティヨンを包囲、攻撃。
最初に派遣された部隊は一度、名将タルボットによって敗走させられてしまうが、リッシュモン麾下のブルトン軍団が加わった再攻撃によってイングランド軍を殲滅。
このカスティヨンでの勝利によって、事実上、長きに渡って繰り広げられたイングランドとフランスの百年戦争は終結する。
ジルがジャンヌと共に辛酸を舐めたパリ城壁の戦いから実に20年後の事だった。
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・1455年11月(51歳)
ジャンヌ復権の為の再審が開始。翌56年5月にはアランソン公もその証言台に立ち、例の有名な『パイ☆乙』発言をする事になるが、日頃の行いが悪かった為か、王命を受けたデュノワ伯に大逆罪の容疑で逮捕される。アランソンェ……
一番その場に出たかってあろうジルさんはどんな思いでこの裁判の経過を見守っていたんでしょうね……『パイ☆乙』で逮捕された公爵の件含めて……
↓
・1456年7月2日
再審が終了し、教皇庁がジャンヌの復権を認める宣言を発布する。
↓
・1458年(54歳)……吸血鬼レベル:スカウターが故障しました。(←)※500から上のいわゆるロイヤルクラスの吸血鬼はフツーの退魔師ではまず一生出会う事がないので、カンスト扱い。
百年戦争終結の最大の功績者である、大元帥・アルテュール・ド・リッシュモン(この時点ではブルターニュ公アルテュール三世)死去。
今際の際にリッシュモンは自ら望んでジルにその魂を捧げる事になる。
恩人であるリッシュモンの死去を機に、フランスで自らが為すべき仕事が終わったのを悟ったジルは、故郷を離れローマへと帰還する。
……ジャンヌ様が神様に愛されたチート娘なのは言うまでもないですが、歴史に残した功績やその能力に関してはアルテュールさんもフランス国内においては十二分に大英雄レベルの人。その魂の質に関しては、そこいらの軍人や聖職者はもちろん、魔術師のものですら圧倒するほど。
単純な命の取り込み具合に関しては、生きている年数を考えれば、むしろ少ないくらいかもしれないジルさんですが、アルテュールさんやジャンヌ様を筆頭に、プレラーティさんを含め保有している魂一つあたりの質が異様に高い事、そしてその殆どが率先して彼に力をかしている為、最終的にはいわゆる〈真祖〉にあたるイシュトヴァンと拮抗するほどの実力者になってしまうのであった……
ちなみに吸血鬼にとって『血』と『魂』を吸収する事の意味の違いはこうして考えて頂けると分かりやすいかと。
一般に『血』や『精』は生命エネルギーそのものなので、パソコンに例えると供給される純粋な電力にあたります。まずこれがないと動く事が出来ない。なのである程度定期的な補給が必要。そしてこれが一定量以上自由になると、修復を超えた自己改良も出来るようになるので、中・長期的にはレベルアップに繋がります。
一方で『魂』の吸収というのは、メモリやハードディスクの増設・拡張を意味します。通常血液の吸収と並行して行われる事が多い為、これをすると本体のスペック自体が一気に跳ね上がります。
ただ、そもそもレベルの低い吸血鬼は相手を『魂ごと喰う』事自体が出来ないので、(※下手すれば食おうとした相手に自分が食われる危険もあるので、相当精神力が強い──自分自身の魂の位階が高い人間でないと真似出来ない)まずそれが出来るようになるまでに相当な時間をかける必要があります。
(※メモリを増設する為に必要なスロット自体をまず作る必要がある。なお、作成出来るスロットの数自体にも個体ごとに限界値がある模様)
で、普通はそこまでのレベルに達しないうちにヘマをして退魔師に狩られる事が殆どのようです。
そういう意味では、復活後のジャンヌ様の存在をイシュトヴァンが『聖杯』に例えていましたが、その大容量の魂を抱えていたジルさん自身の器がそもそも普通じゃないので、下手にジャンヌ様に手を出しても並の吸血鬼では扱いきれないというのが真実な模様。(※そもそもジャンヌ様の同意がなければフルパワーで効果を引きだせない)なんというパワーアップ詐欺。
↓
・その後~現代
仲間の遺志を託され、あるいは宿敵の命を喰らいながら、吸血鬼として進化し続けるジルさん。
かつてジャンヌと語り合った平和な世界を夢見ながら、この理想の実現の為、教会の騎士として、その後も人知れず孤独な戦いを続けていく。
(15世紀から現代に至るまでの500年以上の間には、作者の別作品とのリンク等、色々イベントもあるのですが、長くなるのでここでは割愛)
歴史の影で時に師父であるイシュトヴァンとニアミスや対立・協力を繰り返しながら幾星霜。
時に人々の営みを喜び、時に哀しみながら──歩みの果てに力と知識を蓄え続けた彼は、愛する少女が遺した聖遺物の力を臨界状態にまで高め、これを触媒として在りし日のジャンヌの姿を顕現・彼女を現世に復活させたのだった。←今ココ。
■■■
以上、ここまでが『還り着く場所』の連載中に語られた、百年戦争時代のプレさんとの決着から戦争終結、そしてジャンヌ様を復活させるまでの簡単なジルさんの歩みになります。
実際のところジルさんの人生、もとい彼を主人公としたお話的には、ジャンヌ様がお亡くなりになってからが本番であり本編なんですよね……連載小説の方ではあくまでもジルジャンの恋模様がメインだったので、ああいう感じになりましたけど。
とはいえ、やっと断片的ではありますが、ずーっと脳内で燻り続けていた話を一つ形にして外に出す事が出来たので、また折を見て少しずつでも他のエピソードを小説にして発表出来たらいいな、と思っております。
還り着く場所~騎士と聖女のオラトリオ~ 環希碧位 @aoi_isogaki
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