第6話 昔馴染み
「うっそなんで!? つーか昨日何で言わなかったの!?」
「いや言わねーだろ。第一凛がここにいるだなんて思ってねえーんだから。…なに、凛ってここの部員なわけ?」
「そうよ…悪い? ああーもう何でアンタなのよ…」
優斗とは険悪…って程ではないけど学校では会いたくない部類に入る。昔の馴染みには極力学校では会いたくない。
「なんだ知り合いか? キミにしては珍しいな」
こういった嫌味を間髪入れづに言ってくる奴もいるしね。やっぱり学校では会いたくないわ。
「気にしないで、家が近くて昔からの知り合いってだけだから」
「そうか…まあ知り合いというならこっちとしては助かるけどな」
特に詳しく説明する義理も無いから掻い摘んで説明しただけだけど涼は何も言わない。聞かれても困るから助かるは私のセリフでもだった。
「…………」
「…なに優斗、文句でもあるわけ?」
ブスッと不満気な顔でこちらを見ている優斗に私から文句を垂れてやる。言い返すなら言ってもいいけどアンタに良いように喋られて困るのはごめんだから私もそれ相応の実力行使に出るけどどうする? 言います? 何を言いたいかは知らないけどさ。
「んーなに威圧して来ることねーだろ…それより座ってもいいよな? まだ何も話してないし」
「ああ、かまわん。何処でも良いから座ってくれ」
「サンキュー」
言うが早いか、優斗は椅子を引くと私が座っていた対面に鎮座する。
私はやり辛さを感じつつも元いた場所に座ることにした。いつまでもギャーギャー騒いでるのもカッコ悪いだけだしね。
「散々騒いでたキミが言うのも違和感があるが…まあいい。早速だが要件を聞こう。依頼書は拝見したがどうにも容量を得なくてな」
「あっそうそう忘れてた。優斗って部活なんて入ってたの? アンタ運動苦手じゃない。特訓ってどういうことよ」
学校での優斗は基本女の子とチャラついた男共で群れてるイメージがある。というか事実として群れている。そんな優斗が部活をやっているとは思えないし特訓だなんて可笑しな話だ。勝手に予想するのも何だけど、モテるための新たな作戦かなにか? だとしたら手伝うのがこの上なく馬鹿らしいんだけど。
「…別にモテるためじゃねーよ。もっとの大事な…その……」
何だか喉の奥に詰まったように言葉を発しない。これが楓だったら可愛くもあるんだろうけど、いかんせん優斗だと腹が立ってしょうがない。何でモテるんだろうか。顔が良いのは認めるけど、コイツの中身とか他の女子共は見てないんだろうな、きっと。
「凛だって俺の中身なんて知らねーだろ」
「知ってるわよ、変態でしょ?」
「ちげーよ! 人を変質者みたいに言うな! 俺には俺の事情があんの!」
「あら、そこには反論するのね。ちっぽけなプライドを傷付けましたか?」
「…くっクッソー……何で俺はこんな女を……」
悔しさに顔を歪ませながらぶつぶつ文句を言う優斗。へへー勝ったな、ガハハ。
「勝ち負けの勝負なんかしとらん…。しかし、依頼人が話したくないというなら無理に聞くことも無い。元より我々には関係ないしな」
「さすが部長さんだな。話が早くて助かる」
「…ええー……もう追い返しちゃえば良いのに…」
そりゃ私だって本気で追い返そうとは思ってないけどさ。涼ってなんだかんだで物わかり良すぎ。言ったら仕事だからとか言いそうだけど、そんなに割り切って出来るもんかね。将来ハゲるよ、無理してると。
「大きなお世話だ。では優斗、特訓するにあたっての競技を教えてくれ」
その時、優斗の身体がぴくっと動いた。それは驚いた時のような反応ではなく、例えるなら悪いことをしている時に親に見つかってしまった時のような…。
一瞬だけ、ふっと優斗と目が合う。何故だかは答えを聞いて直ぐにわかった。苛むような眼は私に向けてのものだったのだ。
「空手だよ。凛、空手教えてくれよ」
私にはわかりません 内田 薫 @wanda7
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