第5話 早く服着なさいよ、変態
ゴールデンウイーク四日目。
今日も相変わらずの暑さで、東から上った太陽様は今日も今日とて張り切ってなさる御様子だった。
人間で例えると太陽様みたいに明るい人って大抵空気読めない
滴る汗が腕を伝って指に絡み、私は鞄の持ち手を変える。嫌な予感とはまさに、このバックの中身だ。
昨晩、涼からメールが入った。
『言い忘れていたんだが、明日体操着を持ってきてくれ』
———と。
アルツハイマーなんじゃないかと疑いたくなる程の忘れっぷりだが突っ込みはしなかった。何故なら“体操着”という単語に嫌な妄想が頭を駆け巡ったからだ。
『まさかこのクソ暑い中、外で何かするわけじゃないよね?』
そう思った私の返信は妥当な出来ではないだろうか? 何だったら妥当過ぎて返信した私がビックリである。
『良いから持って来い。じゃあな( `―´)ノ』
そして二度ビックリ。
なんだこれは?→( `―´)ノ 舐めてんのか?
いや…完っ全に舐め切ってるとしか思えないし本気でやってたとしたらキャラ崩壊し過ぎだろ。連絡が遅いことも含め文句ぐらい言ってやらないと気が済まない。
私は額の汗を制服で拭いながら部室の前へとやって来ると乱雑にドアを開け放った。
「あんたホントいい加減にしなさっ…ギャーーー!!!! 何やってんのよ、この変態!!! バカじゃないの!!?」
「相変わらずうるさい奴だな。少しぐらい静かに出来ないのか?」
「あんたが原因でしょうが! 何なのよその格好は!?」
いつもならパソコンなり本を読んでいたりする部長様であるが今日に至っては様子が違った。
———というか裸だったのだ。
下は辛うじてボクサーパンツを履いているが、もう上は裸も裸。布切れ一枚、身に着けていなかったりする。…うーん……案外良い身体付きしてるなあ……
いやいやいや……私が変態か?
「ああーもう完全に怒りが吹っ飛んだ。早く服着なさいよ、変態」
「ノックをしないキミが悪いんだろうが…あと俺は変態じゃない」
「わかったから! もう、早く着替えてよ!」
涼が視界に入らないよう後ろを向く。するすると衣擦れする音が部室中に響き渡る。ちょっぴりエッチだ。
「いいぞ」
その声に安堵しながら振り返る。
すると体操着姿の涼がそこにいた。
「えー! やっぱり外で何かやるんだ」
「まあ、そうなるな」
思っていた通りの展開ではあるが、それでも落胆は大きい。無意識の内に、もしかしたらという微かな希望に縋っていたからだ。
「30度近いっていうのに…このクソ暑い中なにするのよ?」
「いや、詳しくは俺も分からん。ただ部活の特訓に付き合ってくれと書いてあった」
「部活の特訓? 意味わかんない…そんなの部活仲間に付き合って貰いなさいよ」
「もちろんそこも含め本人に聞いてみないとな。———噂をすれば何とやらだ。誰か来たぞ」
素裏面ガラスに人影が一つ。
時間からみてもゴールデンウイークという状況をみても依頼主以外の誰でもないだろう。
涼が声を掛けた。
「どうぞ、入ってくれ」
ゆっくりと、ここで合ってるか確かめるように開かれるドア。
見えたのは茶髪だった。次いで高い鼻梁と凛々しい精悍な顔立ち。
「……え?」
不覚にも、私が目を疑ったのは無理もないことだと思う。だって———
「優斗…まさか依頼主って優斗だったの!?」
今回の依頼主が幼馴染だなんて———想像すらしていなかったのだから。
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