息もつかせぬフリーフォール

うさぎ強盗というかわいらしいネーミングから、ふわふわしたままごとミステリーをイメージしていたが、実際は全く対極に位置する、命を掛けた闘いの物語だった。


次々と提示される証言から始まる、魅力的なキャラクターたちのドタバタ騒ぎは、スクラップされたワンシーンをフラッシュカードのように鮮やかに切り替え展開させていく。

伊坂幸太郎好きな人なら恐らくプロローグだけでこの作品の虜になれるだろう(申し訳ないが、私は少し長く感じたので最初は半分飛ばした、というのも、この先絶対に面白くなるぞ、という確信を持ったため早く先を読みたかったのだ)。

ウィットに富んだ会話、ウェブ小説であることとハードボイルドさを最大限に融和させた簡潔かつ適切な描写、なにより銃とナイフと電脳と火薬がぶつかり合うアクションのド派手さがめまぐるしく読み手を翻弄する。
また、恐らく読者視点として用意されている篠原の内面描写のえぐり方も面白い。


最初はこの派手さ、豊富な知識をこれでもかと敷き詰めた文章のきらびやかさに我を忘れて読み進めていたのだが、途中で少しずつ気づき始めてしまったことがある。この物語はミステリーとしてどこへ転がって行きたいのかが見えないということと、中盤辺りにおいてチョイスされる言葉の詰めの甘さ、そこから綻んで見える遊園地の舞台裏である。例えば、JR京都駅、と書くべきところを一貫して京都駅とのみ書いているため、新幹線なのか近鉄なのか地下鉄なのかわからず特定するまで数ページを要しその間頭に具体的なシーンを描けなくなる、ということが大小あれど散見された。また、ド派手な殺人、誘拐まがいが起きているにもかかわらず、それを観測する一般市民の存在が見当たらない、あるいは非常に薄いことが、遊園地からリアリティを奪ってしまっている。この作者はあえて描写を省いているのか、そうでないのかはわからないのだが、もっと小道具や舞台のひとつひとつにこだわって書いていただければ、さらにエスプリ溢れるかっこ良くスタイリッシュな作品となるだろうと感じた。

と、注文を述べたが、第二話まで読んでいただければ、この先に待ち受けるトリックと推理の展開がいかに巨大で鮮やかなものか、期待に胸が踊るであろう。作者から読者への挑戦状がまるで絶品のアントレ、もしくはフォーアシュパイゼのように供される。
時々挟まる人情ドラマを箸休めに、難解なパズルと映画のようになめらかなアクションシーンの息もつかせぬフルコースを堪能させていただいた。

フリーフォール、とタイトルにつけたが、ラストは心地良く謎がひっくりかえり、これほどに火薬臭く血生臭い世界からは想像できなかったほど仁義あるあたたかで爽やかなものが待ち受けていた。私は、篠原(他の人物の結末も非常に素敵なのだが)が辿り着く場所がなんともかっこ良く強かで好きである。

もしまた長編を書かれることがあれば、是非とも読ませていただきたいと思った。

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