昔話のような設定が、私たちが今息をし暮らしている現代が孕まずにはいられない複雑な外的要素をそぎ落とし、物語の純度を高めている。
シンプルで素朴な、作者が提供するささやかな登場人物と自然の息吹が、太平と花の心の交わりと、それぞれの胸の内を克明に描き出しているように感じた。昔話とは、このように雑音のない物語を作り出すものだったのか、と膝を打った。
互いを思い、相手を愛し、同時にそれ以上に自分の想いを走らせ、二人がたどり着いた場所が暗く誰の手も届かないような場所ではなく、美しく幻想的な竜胆の花で溢れた場所だった。それは、幸せと幸福に溢れながら、透き通った氷のように胸に刺さって切ない。
つかのましか拝めない芸術作品を見たような、圧倒感があった。