概要
見上げていた星は、行ける場所だった。俺は誰も帰らない壁の外へ駆ける。
氷の壁に閉じ込められた世界の底、〈底〉。三年前、アトの村はひと晩で“消えた”。畑も、水車も、母の顔さえも。たった一人、消し忘れられたように生き残った少年は、「わざわいの子」と呼ばれ、誰にも名を呼ばれずに生きてきた。
遺されたのは、壊れた星羅針盤ひとつ。それを託した渡り人カムイは「星は遠い火じゃない、行ける場所だ」と言い残し、誰も帰らないはずの壁の外へ消えた。
三年目の夜、アトは気づく。羅針盤の星座を夜空に重ねたとき――星が、大地に見えた。海岸線、山脈、街の灯り。天文学は、隠された地理学だった。星図は、壁の外に本当に在る世界の地図。そして地図には、名前の無い一点の空白――消された、アトの村。
「取り戻したい」。伸ばした手が、消えたものを一瞬だけ呼び戻す。だがその力を、観測院は見ていた。“
遺されたのは、壊れた星羅針盤ひとつ。それを託した渡り人カムイは「星は遠い火じゃない、行ける場所だ」と言い残し、誰も帰らないはずの壁の外へ消えた。
三年目の夜、アトは気づく。羅針盤の星座を夜空に重ねたとき――星が、大地に見えた。海岸線、山脈、街の灯り。天文学は、隠された地理学だった。星図は、壁の外に本当に在る世界の地図。そして地図には、名前の無い一点の空白――消された、アトの村。
「取り戻したい」。伸ばした手が、消えたものを一瞬だけ呼び戻す。だがその力を、観測院は見ていた。“
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