概要
父が飲み込んだ言葉の値段を、俺は1兆3千億で答えた。
大学のサークル「グローバルリーダーズ・ラボ」の春の研修。LSDを飲まされ、テレビのクイズ番組のスタジオに立たされた俺は、米の値段を聞かれて三百円と答えた。
正しい値段は百九十八円だった。それを知っていたのは、戦争もバブル崩壊も全部くぐり抜けてきたおばあちゃんだけだった。
父はトヨタの下請けの下請けで働いていた。玄関を開けると切削油と金属の匂いがした。高熱の夜、父は隣で正座してテレビを見ていた。俺が「あの人当たりそう」と言うと、父は「そうだな」と言った。それだけだった。熱が下がった。
「そうだな」の前に、父が飲み込んだものがある。それが何だったか、俺は一度も聞いたことがない。
最終ステージで俺は答えた。1兆3千億4百万円と、99銭。父が生まれてから死ぬまでに稼ぐ金額より多い数字を。
値段のつか
正しい値段は百九十八円だった。それを知っていたのは、戦争もバブル崩壊も全部くぐり抜けてきたおばあちゃんだけだった。
父はトヨタの下請けの下請けで働いていた。玄関を開けると切削油と金属の匂いがした。高熱の夜、父は隣で正座してテレビを見ていた。俺が「あの人当たりそう」と言うと、父は「そうだな」と言った。それだけだった。熱が下がった。
「そうだな」の前に、父が飲み込んだものがある。それが何だったか、俺は一度も聞いたことがない。
最終ステージで俺は答えた。1兆3千億4百万円と、99銭。父が生まれてから死ぬまでに稼ぐ金額より多い数字を。
値段のつか
ここまでの歪みに耐えてくれて、ありがとう。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!値段のつかない言葉が、最後まで残る
自主企画へのご参加ありがとうございます。
これはかなり強い作品でした。
父の匂い、手、正座、「そうだな」という短い言葉。
そこから大学のサークル、クイズ番組、値段を当てるという異様な場面へ繋がっていく構成が独特で、最初は少し歪なのに、読み終えると全部が父と息子の話として戻ってくるのが良かったです。
文章もかなり癖はありますが、その癖が作品の熱になっていました。
切削油や金属の匂い、米や卵の値段、ほどけていくGLLの刺繍。
ひとつひとつの描写が、主人公が見ないようにしてきたものを浮かび上がらせていて、読んでいて息が詰まる感じがありました。
父が多くを語らない人だからこそ、「そうだな」が…続きを読む