或る日常

あるまん

「私の事、忘れないでね……」


 そう言って彼女は……俺の前から……


……


「ね~、どっか遊びに行かない?」

「……めんどくせえ」

「彼女に向かって目を逸らしながらそんな事言うんじゃねえええええええええ!! 呪い殺すぞ!!」

「……残業残業で疲れてんだよ。お前だって車運転出来んだから一人で行って来いよ」

「解ってませんなこの唐変木は。こんな瑞々しい肢体の女の子が一人で車で海にでも行ってたら其れこそナンパの標的じゃない。身体目的のヤリサー軍団に捕まってあはれ私の瑞々しい肢体はぐっちょんぐっちょんに汚されアヘ顔ダブルピースしちゃうかも」

「アヘ顔ダブルピースとか知ってる四十女に需要はねえよ」

「あっ、又実年齢を言いやがったなああああああああああ殺す! 今度こそ黄泉の世界へ突き落してやるっ!!」

「ぐわああああああああああああけっつ、頸動脈〆あがっtぐあああああああ!!」


 ……ま、こんな感じだが、勿論彼女の方も本気で俺を殺そうとしてる訳ではない、と思う。

 四十云歳だけど何時迄も瑞々しい肢体というのは嘘ではなく(そういえばさっき二回言いやがったな)、何時迄も女子校生の、具体的には十六歳の様な身体だ。


「はい、という訳で、明日からの連休、○○浜に行きます」

「勝手に決めてんじゃねえ!! って何でそんな所に行くんだよ! 九州だぞ? 高速使って二十四時間運転しても着くかどうか解からんじゃねえか!!」

「ま、貴方が寝ている間は私が運転してあげるわよ。一時間百キロ走れば二日で四八〇〇キロ、日本の端まで行ける計算ですな」

「食事とか休息とか考えやがれ!!」

「そんなものはない」


 ……ま、此奴だったら本当に丸二、三日位は大丈夫なんだろうな。十六才の時は陸上部のエースで、相当鍛えていた筈だ。


「何時迄も脳筋な考えしてんじゃねえ!! ……全く、何でこんな奴に惚れちまったんだろうな……三十年前の自分の前に行けたら引っ叩いて目を覚ましてやりたいぜ」

「……何か言った?」


 ……クリっとした目で此方を覗いてくる彼女。あの時もこの瞳にやられてしまったのを思い出す。


「という訳で、おにぎりを作りました。さあ、是から徹夜でおかずも作るぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「俺しか食わねえのに何個作ってんだよ!! おにぎりだけでも絶対余らすのに全国の米農家さんに謝れえええええええええええ!!」


 ……いや本当、あの時号泣した俺の涙を返せ、利子を付けて!! と言いたいが、こうやって「還って」来てくれた事は純粋に、嬉しい、かな?

 年は取らなくても、ご飯は食べなくても、他の人には見えなくても(だから冒頭のヤリサーに関しては心配していない)、

 話は出来るし、ちゃんと触れるし……えっちも出来るし、ま、成仏する迄此の侭でいいかもな……成仏するのかな?

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