( >▽< 三三三二) ヤーーーーーーーー!

 そのビルはほとんど立方体で、都会の一隅にあった。中身はふつうの広告会社である。


 そのビルが昼休みごろ、いきなり正面にこんな顔(>▽<)をあらわして、町を驀進ばくしんしはじめた。


 水道管や電線など、あらゆるラインをその身から剥がし、道路に土台を擦り付け、縦横無尽に暴れだす。


 ヤーーーーーーーー!



 トイレの個室でお局と変態オヤジが淫行に耽っていた。


 お局は、水圧の弱い給水機にがっつく要領で自分の顔をピストン運動させていたが、茂みが鼻頭にくすぐったく、そろそろ腹に据えかねてきた。


 すると、幼女の掛け声のようなものが響き、同時に、大きな揺れがやってきた。


 ヤーーーーーーーー!


 いきなりの衝撃に、お局のリップまみれの口腔は、パンダの赤ちゃんみたいな親父のそれを噛みきってしまった。


 口周りは、さらにどぎつい赤にまみれた。


 黄ばんだ歯の隙間に、一本の縮れ毛が挟まった。赤と黄、ポテトみたいな色合いだ。



 ある男は便所飯をしていた。目が極端に小さく、ニキビをつぶしまくってボコボコになった顔を持っていた。


 男は壁越しに伝わってくるよがり声に口をふさいで、うずくまっていた。


 すんでのところで耐えきったが、地震にしては大きすぎる揺れが前触れなくやってきたせいで、けっきょく戻してしまった。


 ヤーーーーーーーー!


 胃液が躍り出る。


 同時に(>▽<)が方向転換をしたので、顔面にへどを受けてしまった。



 ゆるキャラのようなかわいい声がオフィスに響く。誰も彼も四方の壁に体をぶつけていた。


 4度頭蓋を粉砕されて、焼く前のハンバーグみたいになった社員がいる一方、たまたま打ち所がよく「やめて……」と絶え絶えに懇願する社員もいた。


 しかし(>▽<)は止まらない。お祭りではしゃぐ無垢な子どものように、無我夢中に暴れまわっている。


 ヤーーーーーーーー!



 窓を突き破って、アスファルトに放り出され、鳥のフンのように課長が死んだ。


 もし誰かが「やめて」と大声で叫び、それが(>▽<)に伝わったとしたら、どうなっただろうか。


 だがそれは、不毛な話である。


 なぜなら(>▽<)は


 自  分  が  一  番  可  愛  く  て  正  し  い  存  在  だ  と  思  っ  て  い  る  か  ら  だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

( >▽< 三三三二) ヤーーーーーーーー! 杉浦ささみ @SugiuraSasami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ