「そらかすみ」

「では、判決を言い渡します」


 人を殺すことは大罪。

 自分の命では償え切れないほどの大罪。


「被告は」


 だけど。

 だけど。

 この世界には、ほんの少しだけ例外というものがある。


「異世界で、新しく人生をやり直す」


 それは、自分の身を守るための殺人。

 自分の身に危機が迫っていて、その危険を回避するためなら人を殺しても構わない。


「以上」


 この世界には、そんな決まりがある。




「いせかいじんさん?」

「はい、よろしくお願いします」


 自分の身を守るために人を殺した人たちには、罰を与えることはできない。

 でも、とある人にとっては、とても重い罰に当たるのかもしれない。


「お母さーん! いせかいじんさんが来たよー!」


 罪を犯した私には、新しい世界が用意される。

 新しく生きていくための世界が用意された。

 すべてがリセットされた、まったく新しい世界に私は送られた。


「空が遠い……」


 でも、人を殺した事実は覆らない。

 でも、自分の身を守るための殺しだったから救済案が欲しい。

 2つの感情が混ざり合った結果が、今なのかもしれない。


「空気も重た……」

「異世界人さん」


 人を殺したという事実は消えない。


「あ……さっきの子のお母さんですか?」

「何ももてなしはできませんが……せめて娘と、ご飯でも食べて行ってくださいな」


 だけど、新しく用意された世界では、私が殺人鬼だという情報は一切知られていない。


「……ありがとうございます」

「お姉ちゃん! こっち! こっち!」


 人を殺したという情報を知る手段すらない、それだけ都合の良い新しい世界に私は招かれた。


「……会いたいな」


 もう、元いた世界に戻ることはできない。

 元々、生きてきた世界に帰ることはできない。


「お姉ちゃん? はーやーくー」


 だって私は、人を殺したから。

 私は、元の世界に2度と戻ることができないという罰を受けた。

 新しい世界で、新しく生きることが、私に課せられた刑。

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『1分で読める創作小説2025』応募作品集 海坂依里 @erimisaka_re

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