12才で軍服を着て海を渡った少年は何を見ただろう

於とも

第1話 ガキ大将が兵になる

 「お前、身体大きいから、14才でいける。義勇兵になれ。」ある日、担任に呼び出されてそう言われた。

 僕は現在12才。軍部の都合で、優秀な子供は義務教育中でも飛び級が出来た。成績が良かったので、2学年飛び級して、4年間で小学校を卒業し、中学生になった。2つ年上の兄と同級生。

 兄は、14才で義勇兵として戦地に派遣される事が決まっていた。

 軍部から、地域の中学生の中から、少年兵を出す人数を決められているのだと、大人達が噂していた。


 僕の兄弟は女1人、男7人の8人兄弟。僕は6男坊。

 長男と次男は既に南方の戦地に行っている。農家の5男、6男に、家を継ぐ資格は無いから、軍隊に入るのが、一番食いっぱぐれがない、と大人達は考えたようだ。

 しかも、家を継ぐ者は確保できているし。下の子供は口減らしだ。


 実は、僕だけ双子で生まれた。産まれてすぐに、片割れの弟は養子に貰われて行った。何故、僕ではなかったのだろうかと、想う日々だった。継母にキツイ躾を受けるのは、いつも僕。すぐ下の弟を産むと、実母は死んでしまったから。

 

 子供が多いと大変だろうからと、親戚が世話をして、継母がすぐにやって来た。すぐに弟が産まれたが、育たなかった。

 それから、継母の僕へのキツイ躾が始まった。

 

 僕は、継母が大嫌いだった。どんなに火箸を押し付けられようと、言う事をきかなかった。折檻されたら、殴りかかった。

 おかげで、きかん気の強い『いたずら小僧』という風に、近所に広められた。それなら、と、僕もそのように振る舞う事にした。

 小学校に上がる頃には、立派なガキ大将になっていた。

 身体も大きくて、逃げ足で鍛えた脚も速かった。

 喧嘩も強かったから、ある日、父親に道場に連れて行かれて、

「相手に怪我をさせない方法を学べ。」

と言われて、放り込まれた。

 道場で基礎から武道を習って、攻守弁えて、すぐに強くなった。


 もう継母が、無体な暴力を振るう事はなくなった。

 だが、すぐ下の弟へ向けての暴力が目立つようになった。


 ある日、父親は継母を追い出した。

 寡黙な父親は、その理由を言わなかった。

 

 僕も兄同様に、少年義勇兵として、海を渡り、戦地に行く事が決まった。

 後日、軍から、配属部隊の通知が来た。兄とは別の部隊だった。


 出兵するその日。列車に乗った。もっと何かしら思う事があるかと思ったが、何もなかった。汽車に乗れた事が嬉しかった。


 配属された部隊で、継母の折檻なんかまだまだ甘いと思えるようなシゴキを受けた。上官からのビンタを毎日受けていたら、すぐに奥歯が何本も折れた。

 

 やっと、戦地への船に乗せてもらえた時、あの上官から離れられた事が、何より嬉しかった。

 

 数日、膝を抱えて眠っていたら、船内が異様な気配に包まれた。

どうやら、乗っている船が、攻撃を受けているらしい。船の壁に沿って座っていた人達が、次々と撃たれていく。

 僕は、咄嗟に、隣で動かなくなった仲間を掴んで、自分の盾にした。それを見た仲間が、同じように、動かない仲間を盾にして、少しずつ少しずつ、出口に向かってにじり出て行った。

 すぐ前を行っていた仲間に、弾が当たった。倒れる隙間から、こちらに向けられた機関銃の銃口が見えた。とっさに伏せながら、倒れた仲間を盾にして、機関銃の一斉射撃を凌いだ。


 一斉射撃が止んだ。はっと、立ち上がり、仲間の身体を足掛かりにして、左側の海に飛び込んだ。生き残った仲間が、数人、右に左にと、海に飛び込んだ。水面の上で、銃弾が四方八方に飛ぶ。

 水泳は得意だった。息継ぎせずに、必死に船から離れた。

 海の中が明るくなった。船に火が点いたのだ。爆風が、岸へと泳ぐ力の手助けとなってくれた。


 やっとの事で、岸の岩場に泳ぎ着いた。

 振り返って見ると、船は、炎を空高く渦巻きながら燃えていた。

 僕は、一人きりだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

12才で軍服を着て海を渡った少年は何を見ただろう 於とも @tom-5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ