階段で踊ろうよ!

りな

第1話 階段で踊ろうよ!

「階段で踊ろうよ!」


教室に戻る途中で、君は急に言い出した。

九月の青空、窓からの光が廊下に揺れる。


「何を言っているんだ?危ない」

「だって踊り場って言うから、踊らないともったいない」


さも当然のように言う。


「足を踏み外したらどうする?」

「足を踏み外しても、怪我をしても、やってみたい魅力がある」

「踊り場には?」

「そう!スポットライトを浴びて、うさぎも猫もやってくる!きらびやかなミュージカル」

「楽しそうだな」


ため息をつきながら、足を進める。


「ところで進路どうする?」

「急に……まだ悩んでる」

「はあ、D判定だから厳しいって」


足は踏み外していない、怪我もしていない、なのに胸は痛む。先のことはわからない。


「踊り場で踊っちゃったら?夜中とかどう?」


教室の扉が見える。

パタパタパタ、二人の足音が廊下に響く。

君の横顔をうかがう。


「やだよ、怪談になる。怒られるのも怖いし」


そんなもんだよな。

受験がある限り、具体的な計画にならない。

踊り場で踊ることはない、代わりに塾に行く。


「でも、実は踊りたくなってきた」

「階段で踊るのは危ないよ?」

「おい、それ俺が言ったことだからな?」


いつものように叩きあって笑う。


踊り場では踊らない。

でも、君がいればどんなところでも踊れる。

不思議だね、ここは片思いのミュージカル。


幕を閉じるまで、今だけでも君と。



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