第2話 金枝

 目を覚ました。俺は森の中にいた。


「なんだよここ」


 俺はキラキラと光る方へと歩いていく。そして開けた場所に出た。一つの大きな木ととても澄んだ蒼い湖がそこにはあった。とても綺麗だ。


「眩しい」


 湖は大きな木の煌めきを反射していた。それに目が眩みそうになる。その光の中に、大きな木の麓に誰かが座っている。


「やあ。ここに誰かが至ったのは神代以来だね」


 眩しくて輪郭がうまくつかめない。だけどその誰かは手に剣を持っていたのがわかった。


「ここに至ることができるのは何かの奴隷のみ」


 俺は一歩踏み出す。何かを踏んだ。それは剣だった。


「君は隷属を断ち切ることができるかい?」


 俺は剣を手に取って……。


「金枝に臨み、それを手折るべし」


 永い時間か一瞬か。それもわからない。時間も空間も曖昧で輪郭は攫めず。どこまでも見通せるかのようで、何も見えない。


「……君でよかった。さあ金の枝に手を……」


 俺に斬られた誰かが囁く。俺はその言う通りに手を金の枝に伸ばして。


 折ったんだ。














「でははじめましょう。あなたは霊長への大権を総攬するもの。よろしく奉ります、あたくしの可愛い王様」



















 そして気がつくと、俺は地面に向かって落ちていた。


「おいぃいい!なんだよこれぇ?!」


 いきなりどこかへ投げ出された。下には池袋のビル群が見える。それと似つかわしくない中世みたいな家屋たちも。


「さあ。あたくしの王様。現世に戻ってきましたわよ」


 俺の隣に例の銀髪の女の姿が見える。というか一緒に落ちてる。


「それはわかるが!場所がおかしい!」


「現世は誰かの陰謀によって歪められました。さあ糾しましょう。そして征夷を成しましょう!」


「それ以前の問題だ!」


 この状況、なんとかせねばいかん。だけど普通に考えて無理。だけど感じる。自分になんかすげぇ力が宿っていることに。頭の中に力の姿と、呪文が浮かんでくる。


「朕ここに勅を下さん」


 そしてビルに向かって手を伸ばす。するとビルの壁面が派手に爆発してそこから木が生えてくる。その枝が俺と銀髪の女をキャッチした。


「もう力を使いこなしているのですね。さすがはあたくしの王様」


「……ああ、おかげで地面とキスせずに済んだよ」


 さらに念じて枝を地面まではやす。俺はそこを梯子のように伝って地面に降りていく。銀髪の女はふわふわ飛んで降りた。


「ではあたくしの王様。この世界を侵食した異物をすべて征夷しましょう」


「それ以前に何が起きてんのかわかんねんだよ!ああ、もう」


 俺は頭を抱える。変な女と変な力のセット=チート!ハーレム!ざまぁ!なんておめでたいことを考えられるほど頭は悪くないつもりだ。


「とりあえずあっちの方に街みたいのが見えたからそっちに行く」


 池袋のビル群の麓に中世のまるでゲームみたいな街並みがあった。そこを目指すことにした。


「そうですわね。まずは拠点を造るのもいいでしょう」


「お前の許可なんていちいち取る気はないよ、ディアナ・・・・


 自分で言っておいて、俺はひどく驚いた。目の前の女の名前を俺は知っている。いや違う。理解した。の方が正しい感じだ。目の前の女は間違いなく人間じゃない。じゃあなんだ?わかってる。こいつは。女神・・なんだと。












 街に辿り着いた。その光景はカオスの一言だった。


「エルフ?!ドワーフ?!猫耳?!」


 ファンタジーな作品に出てくる亜人種と呼ばれる人たちが闊歩していた。市が開かれているようで、屋台が出てたり、アクセサリー売ってたり、金物売ってたりしてた。


「あいつらなんなの?ここ池袋だよね?」


「彼らはこの世界の存在ではありません。異世界から来た者たちです」


「俺がトラック轢かれたとかじゃなくて?」


「トラックの意味は存じませんが、この東京という街が異世界によって浸食され上書かれたのですわ」


「侵食された?だからあの時モンスターみたいなのに襲われたのか」


 空の色も金屏風色で変だし、太陽は真っ赤だし。それもそのせいなのか。


「とりあえず情報収集するか」


「では酒場ですわ」


「なんかゲームみたいでやだなぁ」


 ディアナはなんとも思っちゃいないみたいだけど、俺的には嫌だ。ゲームはゲームだからいいんであって、リアルでするもんじゃない。


「ここかな」


 実にマカロニウエスタンみたいな酒場があった。とりあえず入ってみる。その瞬間、中にいる連中に一斉に睨まれた。


「おいおい!ネイティブかよ!」「とっくに奴隷狩りにあって居なくなったのかと思ったぜ!」「しかし二匹とも美しい、高く売れそうだな」


 なんかすごくおっかない。俺はとりあえず奥のカウンターにかける。ディアナも隣に座った。


「珍しいなネイティブとはな。まあもともとここはあんたらの街だし、不思議でもないか」


「ネイティブってなにさ?」


 マスターらしきエルフの兄ちゃんが俺らの前に立った。


「おいおいこの街の先住民のあんたらのことだろ。耳が短いエルフもどき」


 俺からすればエルフのが人間もどきなのだが、黙っておこう。


「ヒトもどきの異世界の異物風情が偉そうですわね」


 言っちゃった?!ディアナさん!?


「あはは!確かにあんたらから見ればそうだな。俺はキースだ。よろしくなあんたら?」


「俺は幽栖路実央。こっちはでぃ」


 ディアナの名前を口に出しかけてやめた。直感が走った。彼女の名前を口に出してはいけない。俺以外の誰かは。


「こっちのカノジョはジュリエットだ」


 自分の名前から反射的に出てきた。恥ずかしい。だからやなんだよこのロミオって名前!


「そうか。ロミオとジュリエットな。よろしく」


 二カッとキースさんは笑った。人が出来てるなぁ。飲食店を経営しているとこういうのにも慣れっこなのかな。コミュ力が羨ましい。


「えっとキースさん」


「なんだ」


「俺たち色々あって迷子なんだ。今この世界ってどういう状況なんだ?地震があってから人に会うの初めてで……」


「え?お前たち地震から続くあの地獄を今日まで一年街の外で過ごしたのか!?す、すげぇな」


 一年?!俺はディアナの方を見る。


「神域と現世では歪みが出ますので」


 適当な説明で巻かれた。納得いかない。


「まじかよ。じゃあ色々説明してやる。飯も出すよ」


「日本の円しか持ってないんだけど」


「いや。地獄の迷子さんへの労いだ。奢りでいい」


「じゃあいただきます」


 俺たちの前に飯が出された。パンと肉がたっぷりのスープにサラダ。すごく美味しそう。


「ネイティブの料理人の下で俺は修業したんだ。お前たちの舌だって満足させてやるよ」


 キースさんがドヤってる。けど美味いのでオッケーです。そしてキースさんから色々と聞かされた。東京はキースさんたちのいた異世界と融合したそうだ。そして東京の外へ出られない。結界が張ってあるらしく東京二十三区の外へは出られないそうだ。さらにいうと。


「この東京はお前たちの住んでいる地球の中にあるが、内部の面積は地球の何倍もあるそうだ。ギルドの調査員たちが公式にはそう発表してる」


「マジかよ……」


「俺たちの世界がぐちゃぐちゃになって融合したからな。そんでもってさらに別の世界、というか異界?というのかな。そういうところから大量のマナやエーテルが流れ込んでる。街のような結界張ってるところ以外はモンスターやダンジョンだらけだ」


「なんだよダンジョンって」


「俺は冒険者じゃないからダンジョンはギルドに聞いた方がいい。まあこの世界はめちゃくちゃってことだ。俺たちのもとの世界にも国とか都市国家とかはあったんだが、それらもめっちゃくちゃに再起不能状態。公権力なんてもんはこの東京にはもうないんだよ」


「わぁファンタジー」


 どっちかっていうとモヒカンがバイク乗ってる世界?頭が痛すぎる。この世界の状況にくらくらしそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

森の王 異世界都市東京攻略冒険譚 万和彁了 @muteki_succubus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ