森の王 異世界都市東京攻略冒険譚

万和彁了

第1話 異世界侵食

 俺は突然現れた大きな狼に追われていた。


「なんだよ!いったいなんなんだよ!」


 ここは東京だ。野生動物に出会うなんて考えられない。それだけじゃない。空の色もおかしい、金の屏風のような色に血のような真っ赤な太陽だけが浮かんでいる。空の蒼さがどこにもない。襲われているのは俺だけじゃなかった。あちらこちらから悲鳴の声が響く。誰もがゲームに出てくるような怪物に襲われていた。


「くそ!」


 狼に噛みつかれそうになって俺は地面を転がって避ける。そして気がついたら路地裏の行き止まりに追い込まれていた。


『ねぇ。王様になる気はない?』


 視界の端に逆さまになって浮くゴシックロリータ服の銀髪紫瞳の女が映る。その女は人間とは思えないほど美しく。清楚でありながら妖艶な笑みを浮かべて俺をみつめている。


「それどこじゃない!!」


 俺は近くの資材置きから箒を取って正眼に構える。狼が口を大きく開けて俺に喰いついてくる。そこへ箒を差し込んで、その動きを躱す。


「woooooooooooooooooo!!!」


 狼は自分の強すぎる力で箒を噛んだ。そして口腔を箒が突き破ってしまった。その痛みで狼は悶え苦しむ。俺はそれを尻目にそそくさと逃げる。


『素晴らしいわ。やはりあたくしが見込んだ通りの益荒男。あなたこそこの世の統治権を総攬するに相応しい。霊長主権の王に相応しい』


「黙ってろ!」


 まだ視界の端に女は映っている。だけどそれを無視して俺は街を駆ける。早く安全を確保しなければいけない。このおかしくなってしまった東京で。


『では招待いたしましょう。聖なる決闘の鬨来たれり。我が神域たるネミの森へと』


 十字路に入った瞬間、俺の足元が突然崩れた。そして奈落へと落ちていった。














Rex Nemorensis Toci Alterius





















 今日も一日だるい。学校は俺にとって苦痛だ。


「いえぇえいwwロミオくぅん!ぱつきんロミオくぅん!何か言えこら!」


 いつものようにクラスのヤンキーが絡んでくる。とてもうざい。机を蹴っ飛ばしてくる。


「まあまあやめてあげなよ。名前は変えられないんだからね。路実央ろみおくんすまないね」


 そう言いながらこの学校のトップオブトップのキラキラ一軍男子の神威カムイ耀真ヨウマが近づいてくる。


「ヨーマまじやさしぃ!おい!幽栖ゆうす!感謝くらいしろや!」


 俺は無視を続ける。だけどふっと視界に俺をいかにも見下している感のある女子たちが入った。俺は神威に嫌われている。入学初日はそこそこ仲良く話したと思ったが、次の日からヤンキー嗾けて、女子たちに悪評を振りまいて、俺はオタク以下のゴミカスカーストに墜とされた。女子はカーストでしかものを考えられないから、俺がいかに素のスペックがずば抜けてても、虫けらのように扱われている。その中には俺の幼馴染で今は神威のカノジョになってしまった真名井凛月りつきの姿もあった。全くこの世は腹立たしい。もう学校やめようかな?でも母親という名のバカが煩いからそれも考え物だ。早く大学に進学して、家からも出たい。俺はこの檻のような今の状況が好きになれなかった。








 放課後、神威と真名井がデートに出かけていくのを校門で見た。制服デートという素晴らしいイベントは俺には無縁だ。だけど母親の醜態を見ていると女という生き物に期待も出来ない。俺は家に帰りたくないから、学校近くの池袋の公園のベンチで適当に過ごす。スケッチブックで鳩を適当に描いているときだった。隣にえらいイケメンな黒人のお兄さんが座ってきた。高級なスリーピースの白いスーツが良く似合っている。


「君は王子様のように綺麗だね」


「はい?あ、ありがとうございます?」


 なんか突然変なこと言われた。


「だけど君は本来の輝きを曇らされて鎖に縛られている。それでは駄目だ。それでは君は自由になれない」


 いきなり何なんだ、この人は。


「いいかい。女神を崇めるな、それは絶対にしてはならないことだ」


「女神なら祈るべきなんじゃないの?」


「違う。女は求めている。自分の服従させてくれる、支配してくれる男を」


「その発言は女性差別的なのでは?」


「だがね。真理だ。いいかい女神に祈るな。むしろその尊厳を踏みにじり辱め犯すのだ。それこそが女神の本当の望みであり、そして女神を味方につける唯一の方法なんだよ」


「いってることがやべぇな。あんたは俺に何させたいの?」


「この世界を守ってほしい」


「スケールデカくて笑える」


「まあ頑張ってくれたまえ。君のその湖水のように澄んだ蒼い瞳に女神は必ず釣られてやってくる。頑張れよ」


 そう言って黒人のお兄さんは去っていった。







 それからすぐだった。突然大きな地震に襲われた。立っていられないほどの強い揺れ。そして空の色が突然変わり、辺り一面の風景は一変した。ビルはサイケデリックな色に染まり、道路は割れて地面が露出する。そしてあたりに陽炎が浮かび上がって、その中から怪物たちが姿を現したのだ。


「は?なに?なになになに?!」


 そして俺はそのうちの一匹の狼に追われることになったのだ。この日を後に、異世界都市東京の聖誕祭と呼ばされることになる。それは当時の俺にはまだ知る由はなかった。






作者のひとり言


銀髪の女の名前がわかった人は手を上げよう。まあタイトルでもろバレなんだが。

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