第4話・怪物の依り代花嫁
そして、校庭で大虐殺が行われているのと同時刻──体育館では異形の存在がステージに出現した。
体育館のステージの端から現れた、その怪物は醜悪な姿をしていた。
モップのような足を蠢かせる臓物は、詰まった塊袋のようなボディに蔓植物と触手を合成されたような腕が生えていた。
臓物の塊の中央にはシワだらけの、一つ目の女の顔がついている。
さらに葉脈のようなモノがボディに走り、ジャコウネコの香りが漂っていた。
そして、一番の特徴はターコイズブルー色が入った体色で、ヒスイカズラのような突起が触手腕に並んで生えていた。
不気味な
中央にある一つ目女の唇から、黄金色の液体が垂れる。
それを見たエンジュは、引き寄せられるようにステージに上がって因習学園の
ジャコウネコの香りにエンジュは恍惚とした表情で言った。
「ヒスイカズラさま……百合の淫らな女たちの姿を、ご堪能ください……莫大な財運をください」
エンジュは、一つ目女の唇に自分の唇を重ね、黄金色の液体を飲んだ。
飲み終わったエンジュが、愛し合っているユズハとミズキに向かって言った。
「あたしの役目はこれで終わり……我が緋扇家は、これで莫大な財力を持つ……次は、あなたたち選ばれた
エンジュは、ユズハとミズキは特別な生徒で、宿舎に仕掛けられた監視カメラと盗聴器で、名家の家が二人を競り落として……すでに、嫁入りが決まっていた。
エンジュの体が黒色に変わり、塵のように崩れはじめた。
「数十年後の赤い月の儀式までに……誕生を調整されて生まれた、あなたたち二人の子供が学園に入学して、生徒会長と副生徒会長になる……生まれてくる子供は女の子に決定している」
体の半分以上が崩れながら、エンジュの声だけが聞こえていた。
「ヒスイカズラさまは、女性が愛し合う姿が好き……生き延びたかったから愛し合いなさい、そしてヒスイカズラさまの黄金の寵愛を……」
緋扇 エンジュの体は完全に崩れて、ローブだけが残った。
因習学園のおぞましい儀式──財と富を求める者たちが、子どもたちを犠牲にして財運を繋いでいく。
いち早く自我を取り戻したユズハが、ステージ上にいる怪物に悲鳴を発した。
「きゃあぁぁぁ! ナニ? あれ?」
ユズハの声を発端に、我に返った女子生徒たちが体育館から逃げ出し……ヒスイカズラが、夜の校舎内を逃げる女子生徒たちを追って移動する。
モップのような足を回転させて移動する、ヒスイカズラの速度は速かった。
追いつかれて首を触手で
「教室のドアが開かない! きゃあぁぁぁ!」
絞め殺された女子生徒の死体が階段から、放り投げられる。
先頭を逃げながらミズキがユズハに言った。
「この先のシャワールームに逃げるよ……」
「でも、シャワールームに逃げたら逃げ場が……あの場所は通路の行き止まり」
「オレに考えがある……生徒会長が残した言葉が正しければ、あの怪物は……」
シャワールームに飛び込むミズキとユズハ……他の数名の生徒も一緒にシャワールームに飛び込む。
ミズキは個室にユズハと一緒に入ると、ユズハの上着を脱がせて、さらにスカートも脱がして。
ユズハを白いシャツと下着だけの姿にすると自分も同じ姿になって温水シャワーのダイヤルを回す。
温水が狭いシャワールームで二人に降り注ぐ。
ヒスイカズラも、シャワールームに入ってきて、壁際で悲鳴を発する女子生徒たちの首を次々と撥ねる。
シャワールームの惨劇……壁や天井に飛び散る鮮血。
ミズキとユズハは、抱擁して唇を重ねて、互いの体を愛撫して愛し合う。
「んんッ……ユズハ、オレを愛して……愛し合っている間は、あの怪物は襲ってこない……んんッ、もっと強く抱きしめて」
やがて、ヒスイカズラの口から黄金の液体が垂れはじめた。
ミズキとユズハの頭の中に、頭が割れるほど強いテレパシーが聞こえてきた。
《ぅいんしゅう……ぅいんしゅう》
それが、どんな意味も持つ言葉なのか二人にもわからなかったが……本能的に身の安全を確信したミズキとユズハは、シャワー個室を出てヒスイカズラの唇に溜まった、黄金の液体をすすった。
ミズキとユズハが、黄金の液体をすすり終わると、ヒスイカズラはシャワールームを出てどこかへ行ってしまった。
◆◆◆◆◆◆
数日間の休校の後──因習学園は、何事も無かったように、惨劇の痕跡は清掃されて再校した。
そして、鏑矢 ミズキと弓月 ユズハは別々の名家の嫁となって、学園から去っていった。
黒き森の深淵~因習百合学園~……おわり
黒き森の深淵~因習百合学園~ 楠本恵士 @67853-_-
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