7月の雨のアンブレラ

かなたはれるや

7月の雨のアンブレラ

彼はこんな逸話・寓話を思い出していた。


「雨の降る確率が60パーセント以上の時は必ず雨傘を持って出かけるようにする。

6月から8月の土日の雨の日の午後にショッピングに出かけると、傘のない女性は男性に男性は女性にあなたに傘に入れて欲しいと話しかけてくる。傘は半透明な傘が望ましい。相性の良い関係がはじまるでしょう。それでも良い関係にならないのはあなた側のこころに問題がある。直すべきです。」




7月のある土曜日、ある大学生「こうた」は、いつも通り起床した。朝5時に起床して洗顔歯磨きをして、朝食をゆっくり摂っていた。今日1日の天気予報は降水確率70パーセントとわかった。

午前は小雨であるが、午後から夜にかけて降水確率が高くなるでしょう。

平日は通学となるが、この日は土曜日だったので朝時間はゆったりと小説でも読みながら過ごした。


「今日はどうしようかなぁ」

「一日中雨だし、でも、まっ、雨でも気晴らしに買い物でもすればいいか。」


11時ごろになり外出しようと支度をしていた。雨は一向に止む気配がない。


「まだ、雨が止まないなぁ」

「ザァーという雨の音が、微(かす)かに聞こえる」


玄関で今日の靴を選び、ルンルン気分であった。

そうこうしているうちに時間が迫ってきた。


急ごうとして、玄関を立とうとしたら、母が「ちょっと傘!」「傘を忘れないで!」と

声をかけてくれた。

この一声がなかったら傘を忘れて外出したに違いないのだった。


路線バスで一路ショッピングセンターへと向かうのだった。

土曜日の午後で道路は混み合っていて少し遅れ気味にショッピングセンターに着いたのだった。

午後になり、ようようと雨の強さが増しているのであった。


ショッピングセンターでは、生鮮食料品はタイムセール品を求めて多数の行列ができていた。

行列のお客さんはひっきりなしに続いていて、とても賑やかであった。


この時間はタイムセールだから、後にしようと思い、貯金箱でも探そうかと小物を扱っているお店を探していた。いろんな形をした貯金箱を集めるのが趣味で、1日500円玉を貯金箱に貯めていたのだった。


これまでに集めてきた貯金箱は「レトロ郵便ポストの貯金箱」「缶詰の形の貯金箱」「賽銭箱の形の貯金箱」など多数あった。


缶詰の形の貯金箱は開けるのにプルタブを開ける必要があり、一度開けると、もう再利用できないので、この前開けた代わりの新しい缶詰型の貯金箱を探すことにした。


みんな面白い形の貯金箱ばかりで、るんるん気分はさらに貯金箱への興味を高めていた。

そんな中で無地の、かなり大きな缶詰型の貯金箱が目に止まった。


「これにしよう」


店員さんに


「この缶詰型の貯金箱ってどこで生産したの?」とか

「どこのメーカーですか」


などいろんなことを訊ねていた。


そうこうしていると、他にもお客さんが集まってきて貯金箱を眺めたりしていて、


その中の若い女性の一人が、


同じ缶詰型の貯金箱に興味を示し始めて、店員さんに


「この形初めて見ました」

「めずらしい!」


とかなり話題が共通していました。

若い女性は薄い水色のワイシャツに白いロングスカートの

華奢で明るそうな様子だった。


彼女も貯金箱を集める趣味があるようで、


店員さんが


「あの方も同じで、貯金箱を集めるのが趣味だそうよ」


と私のことを話していました。


若い女性は「ああそうですか!それは偶然!」とかなり明るい性格の喋り方で

店員さんが「あの人!」「あのワイシャツ姿の」


話が全てわかっていたので、照れそうにしながら


「これですか?」と


既に購入した、缶付の貯金箱を彼女に見せた。


彼女は


店員さんに「同じ在庫はありますか」

「お取り寄せか、次の入荷が1ヶ月後になります。」


若い女性は「そうですかぁ」とさっきの明るい声が少し

暗くなっていた。


そこで「よかったらこれやります。」


若い女性は「いいんですかぁ!」「ありがとう!」

急に声が前と同じように明るく明快な喋り方に変わっていた。


「わぁー!」

「珍しい!」

「欲しかったー!」

「嬉しいわー!」


あっという間に時間が過ぎていた。

雨はまだ強いようだった。


そろそろショッピングを終えて、2人でいろんなおしゃべりをしながら

出口まで来た。

しかし出口からバス乗り場までは傘が必要であった。


若い女性は傘をもってこなかったようで、


2人で傘に入り、バス乗り場まで辿り着いた。

帰りのバスの方面は違うバスのようで、時間までかなりの間があった。


その間に「これ私のメールアドレスです。」とメモを渡して、

「今日はありがとう。」

「またよかったらお会いしましょうね。」


こちらからも、ポケットから手帳を取り出してペンでメモに、

メールアドレスを書いて、彼女に手渡した。

「ありがとう。」

「うれしそうでよかった。」


しばらくすると急に雨が止み、青空が広がってきた。

帰りのバスの中で、あの逸話を思い出していた。

あの逸話って本当にあるものなのなのか、と偶然なのか運命なのか、学問でも解明できない不思議さを彼は思っていた。


窓の遥か彼方には入道雲が見えていた。


「長い梅雨が明けたんだなぁ。」


そう直感した。


帰路のバス停で下車してしばらく歩いて、自宅に着いた。

夕方の17:13頃だった。

いろんな考え事が過(よぎ)っていた。

カバンの中を整理して、雨に濡れた折り畳み傘を取り出し、乾燥させるために広げて玄関に置いておいた。


ショッピングセンターのタイムセールのお惣菜とチキンカレーと果物を取り出し、テーブルに置いた。

ポケットからメールアドレスのメモを取り出して、パソコンに入力した。


夕食のチキンカレーは、チキンが柔らかくて辛口のカレーのスパイシーさが食欲をさらに刺激した。お惣菜の酢豚で程よい量になっていた。果物は量が多いのでパックを開けず、あとのおやつにしようと残しておいた。


夕食を終えた後、シャワーを短時間浴びた。

夜が心地よく感じるのだった。

静まり返り静寂が包み込んでいた。


夜8時になっていた。

徐(おもむろ)にパソコンのスイッチを入れた。

SNSなどを閲覧した。


ニュースには「梅雨明け宣言発表される。」の横文字が流れていた。


暫(しばら)くすると、新着メールが届いていることを知らせる、アラームとアイコンが表示されたのに気づいた。


表示には「新着メール5件」と表示されていた。


早速メールアプリを立ち上げると、5件のうちの1件の表題には、


「時刻19:30 楽しかったです。今日はありがとうございました。缶詰の貯金箱うれしい。」


「ああっと、今日のショッピングセンターの」


早速、返事のメールを書き起こして、送信ボタンを押した。


19:30のメール本文には、彼女の集めた貯金箱の写真が載っていた。


確かにいろんな形の貯金箱が写っていた。


「こちらから何を送ろうかな」


考えてから明日にでも送ろうと思っていた。


そうしている間に、彼女からまた新着メールがあった。


表題は「20:24今日の夕食はお寿司。おいしかったよ。今日の夕食は何でしたか?」


「20:29 今日の夕食は、チキンカレーと酢豚と果物でした。量が多かったよ。私も

いろんな形の貯金箱を集めています。偶然ですね。」


1分後

「20:30 いろんな情報交換しましょうね。どこのお店が良いとか、いろんなお話をしましょうね。」


こんなやりとりが夜遅くまで続いていた。


「23:43 明日は日曜日なので自由です。今日はお休みしてまた明日お話ししましょうね。」


長く続きそうな気配がしていました。


7月の土曜日の出来事でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7月の雨のアンブレラ かなたはれるや @karamel7373

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画