日常から非日常へ、美と恐怖が混じり合う幻想譚
- ★★★ Excellent!!!
冒頭は会社の昼食時という、というごく日常的で平和な場面から始まり、そこから一気に非日常へと読者を誘い込み、やがて神話的な幻想譚へと姿を変えていきます。
その移行の滑らかさと鮮やかさに、一気に引き込まれました。
印象的なのは、音楽の力と自然の摂理が織り重なって語られていく点です。
鮎や鮭、ウナギといった魚たちの生態が物語の中で折に触れて紹介されるのですが、それらは単なる雑学にとどまらず、人と人ならざるものとの関わり、生命と欲望のかたちを暗示する寓話として響きます。
知識と幻想が交差することで、物語全体が奥行きを増し、読者に不思議な余韻を残します。
終盤に至っては、舞台を目の前にしているかのような圧倒的な臨場感があり、美しさと恐ろしさがないまぜになった光景が広がります。
その瞬間のために積み重ねられてきた言葉が結晶し、読者を魅惑と戦慄の両方で包み込むのです。
これは恋愛小説であり、怪談であり、同時に音楽の物語でもあります。恐ろしくも美しい世界に、心ごと溺れるような読書体験でした。
美しいです。