第3話

第十章 海の男になった涼介


3ヶ月目。涼介は完全に別人になっていた。


「リョウスケ!今季最後の大漁だ!」


船長が叫んだ。涼介の提案した漁場で、記録的な水揚げを達成した。


「お前のおかげで、みんな大金持ちだ」ビッグ・ジムが涼介を抱きしめた。


最後の夜、船員たちは涼介のために送別会を開いた。


「リョウスケ、お前は最高の仲間だった」


「また来いよ」


「お前の親友にもよろしく言ってくれ」


涼介の目に涙が浮かんだ。最初は地獄だったベーリング海が、今では第二の故郷のように感じられた。


東京


同じ頃、カイは小さな投資家から資金調達に成功していた。


「カニ漁支援ドローンなんて、ニッチすぎて面白い」


投資家の言葉にカイは驚いた。涼介の詳細な手紙から着想を得たプランだった。


第十一章 極北の罠


ベーリング海――アラスカとロシアの間に広がる氷の海。

冬は気温マイナス40度、波高15メートルの大波が平然と襲い、甲板は一瞬で氷の滑り台になる。

人ひとり海に落ちれば、3分で意識を失う死の海だ。


カイと涼介はカニ漁サポート専用ドローン開発の資金がシートしていた。もう少しだ、投資家にも、アピール出来る。

このカニ漁サポート専用ドローンは、成功する。

アピールだ!資金を出してくれ!

そして、また、ベーリング海に来ていた。


慣れたとはいえ、過酷な環境に変わりはない。

眠る暇もなく、餌を切りながら、タラかじる。カニかごの餌を詰め、寒さで手の皮膚が裂けても止まらなかった。

空腹と疲労で意識が遠のくたび、涼介はタコの生肉をすすった。

「これが…俺の燃料だ…」

海の匂いが喉を焼いた。


「リョウスケ!かごを運べ!」

ビッグ・ジムの声が飛ぶ。

涼介はふらつきながらも甲板を走った――その瞬間、水平線が崩れるような白い壁が迫った。

「波だ!!」

轟音と共に、大波が甲板を飲み込んだ。

涼介の身体は宙を舞い、氷の海へと落ちていった。


第十二章 鉄の羽根


「――ぶ、くっ…!」

氷の刃のような海水が全身を切り裂く。息ができない。

視界が暗く沈みかけたその時――


空から低い唸り声のようなモーター音が降りてきた。

水面に浮かんだのは、銀色の小型ドローン。

船のレーダーとGPS、さらに独自のドローンレーダーで位置を正確に割り出し、救助用のワイヤーが射出された。

涼介の胸に自動でベルトが巻きつき、そのまま甲板へと引き上げられる。


「な…なんだこれは…」船員たちが唖然とする。

機体には見覚えのあるロゴ――カイが描いた設計図のマークだった。


甲板で咳き込みながら、涼介は声を絞り出した。

「カイ…?」


その瞬間、ドローン前面のスクリーンが開き、カイの顔が現れた。

「涼介!生きてたか!」

「お前…どうして…」

「大手と組んで開発の加速度を上げた。ついに、カニ漁サポート専用ドローンを作ったんだ。

漁場をGPS、船のレーダー、ドローンで、立体的にスキャンしてカニの群れを正確に割り出し、物資や救命もできる万能型だ!」


船長が唸った。「これがあれば、命も稼ぎも救える…」


第十三章 氷の海と未来


その後、ドローンは漁を劇的に効率化した。

網を下ろす場所の成功率は95%を超え、餌や工具の補給も空から行える。

ベーリング海の男たちは、次々とカイの機体を絶賛した。


港に戻る日、ビッグ・ジムは涼介の肩を叩いた。

「リョウスケ、お前が連れてきたこの相棒は最高だ。次のシーズンも頼む」

涼介は笑った。「今度はもっといいドローンを持ってくるよ」


その夜、涼介はドローン越しにカイと語り合った。

「お前の夢、叶えたな」

「いや、まだ始まったばかりだ」

氷の海の向こうに、二人の未来が静かに広がっていた。


第十四章 星の下


数週間後、全てのドローンが同時に止まった。

原因はソフトの有効期限切れ。解除にはネット認証が必要だが、ベーリング海に電波はない。


涼介は衛星電話でカイに連絡した。

『悪い、うちの会社、昨日買収された。パタゴニアの大手漁業会社だ』

「……パタゴニア?」

『スペインのインド洋でやってる遠洋マグロ漁さ。だから――』通話は切れた。


翌日、同じ形のドローンが空を飛んだ。旗はスペイン国旗。

氷の海で涼介は呆然と空を見上げた。

ビッグ・ジムがぼそっと言った。

「なあ…お前もドローンつくれるんだろ。スペインなんか無視して、ベーリング海のキングになろうぜ」

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氷海の絆 〜ドローンが結ぶ友情〜 奈良まさや @masaya7174

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