手紙 Dear My Friend

異端者

『手紙 Dear My Friend』本文

今井太一君へ


 僕がなぜ居なくなるのか。それを君にだけは伝えておこうと思う。

 結論から言うと、僕は人間ではなくなってしまったんだ。


 僕が病弱だったことは、君もよく覚えていると思う。

 幼稚園や小学校では、何度となく休んでいた。

 そんな僕を周りは腫れもの扱いだったけど、君が優しくしてくれたことは忘れない。

 親は隠していたけど、知っていた。僕が長く生きられない体だということを。

 僕は体の臓器が生まれつき異常で、大人になるまで持たないだろう。そう親が医者と話していたのを知っていた。

 親はなんとかならないかと、医者につめ寄ったけど、医者は助ける方法がないからと首を縦に振らなかった。それはどこの病院に行っても同じだった。

 医学では救えない。そう悟った親がすがったのが「信仰」だった。病気が治る水やパワーストーン。幸運を呼ぶ壺など……どこからともなく湧いてきたそれらに惜しげもなくお金を使った。

 でも、駄目だった。病状は悪化する一方で、僕は日増しに弱っていった。中学に上がる頃には、たまにしか学校に出てこられなくなったことは覚えているだろう。

 親はその様子をなげき悲しんだ。それが僕のためだったのか、自分たちの不運をなげいたのか……今でも、よく分からない。

 ただ、一つだけ「本物」があった。

 ある「教団」を名乗るその連中は、彼らの神を信仰するのなら助けてもいいと言った。

 もはや何も助けにならない。全て噓だったと思っている親は最初のうちこばんだ。

 だけど、他と違って高額な代金は取らない。僕を儀式に参加させるだけで良い……そう言われて、ワラにもすがる思いで頼ることにした。

 僕はうす暗い祭だんの中央に寝かされ、儀式は行われた。お香の匂いと鈴の音、奇妙な呪文で頭がぼんやりとしてきた。気が付いたら、教団のベッドの上で僕は帰って良いと言われた。

 それからのことは、言うまでもないだろう。

 僕は体の弱かった箇所がすっかり治っており、普通に登校できるようになった。

 体育の授業にも、普通に参加した。それまで動かなかったのが嘘のように、僕は大活躍だった。

 勉強も、君が教えてくれたのもあって、なんとか追いついた。

 その時は、本当に「治った」と思っていた。

 ただ、妙なことに気付いた。傷の治りがやけに早いのだ。ちょっとした擦り傷や切り傷なら、一時間もたたずに治ってしまう。……おかしいとは思ったけど、僕はその時は自由に動けるようになったことに夢中だった。

 部活動も始めた。君と同じサッカー部に入った。

 以前の僕を知っている連中は、厳しい活動内容に付いていけるはずがないと笑った。

 しかし、そうならなかった。

 むしろ、僕の方が単純な体力ならあるようにさえ見えた。

 そうすると、今度は僕を妬むようになった。前まではあんなに病弱だったのに……そんな憎しみにも似た視線を浴びるようになった。

 その日も、そうだった。

 わざと道路に蹴り出したボールを僕に取ってこさせようとしていた。

 僕は大型トラックが来ているのにも気付かず、彼らが言うままに道路に飛び出した。

 一瞬のうちに体が跳ね上げられ、車に跳ねられたのだと理解した。

 僕の体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。その数メートル先で、トラックが止まるのが見えた。

 彼らが青い顔をしているのも目に入った。きっと軽い嫌がらせのつもりでしたのに、自分たちが責任を追及されるのが怖かったのだろう。

 僕はゆっくりと体を起こした。慌てた様子で顧問の先生が来て、怪我は大丈夫かと聞いた。

 僕は体を確認したが、軽い擦り傷が残っているだけだった。

 なんともないと答えると、今度は心配した様子ではなく恐れる様子を見せた。周囲の人間も同様だった。君もあの時のことは、よく覚えているだろう。

 この時、僕は自分がなんなのか知った。

 教団の連中が行ったのは、僕を治すための儀式ではなかった。

 彼らの神が、徐々に僕を乗っ取っていくための儀式だったのだ。僕はその神のための器だった。

 僕が治ったと感じたのは、その神の一部が僕の体の壊れた部分と置き換わったから。自分の臓器ではない神の臓器……それが、僕が壊れる度に置き換わっていく。

 だから、日に日に健康になるのではなく、神に乗っ取られていく。今思えば、これは教団が仕組んだ巧妙な罠だった。自分たちの神を現実に出現させるために。

 このままでは、完全に彼らの神となってしまう。今はまだ、脳だけは自分であるようだが、それもいつまで持つか分からない。

 親は僕が健康になったと思い込んで、敬けんな信者となってしまい耳を貸さない。

 僕が完全に神となった時、彼らが何をさせるつもりかは分からない。ただ、それは大多数にとって良くないことだとは分かっている。

 自殺することも考えたが、それでは完全に乗っ取られるだけで終わる恐れがあるから、誰の手も届かない遠くに行く。


 今までありがとう。どうか僕のことは忘れて、幸せに生きてほしい。


吉田翔助より

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