ブードゥーの秘術

大電流磁

ブードゥーの秘術

 大変です! 人をゾンビ化するウィルスのパンデミックが起きてしまいました。

 あたりはゾンビが徘徊しています。

 とにかく生存者と合流しようと現在地からの移動を決意したあなたですが、意外に動けるゾンビに囲まれてしまい絶体絶命。

 しかしあなたにかみつこうとしたゾンビは、なぜか突然そっぽを向いて別の方角へ行ってしまいました。

 どうしてあなたは助かったのでしょう?

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 かつて、ブードゥー教の呪術師ボコールは言った。

「魂には四つある。人の魂『グロボンナジュ』、思考の魂『ティボンナジュ』、肉体を動かす魂『ナーム』、運命を司る『ゼトアール』。これらの魂が肉体『コールカダブル』を操る。」

 そして、嬰児の遺体を材料に特殊製法で作ったゾンビパウダーを人に施し『ナーム』のみにする。その上で暗黒魔術を施し、人の魂『グロボンナジュ』のみを戻せば、人を使役できるようになる。それが本来のゾンビだ。


           ・


 テレビが報道する。人をゾンビ化するウイルス『ロメロ』が蔓延していると。マスクをつけ、外出を控えろ、と。


 それは当初、豪華客船『プリンス・サファイア』の上で始まった。横浜港に接岸した時点では、半数の乗客がまだ人間だった。しかし、ウイルス拡散を恐れて上陸を許可せぬ間に、運行スタッフを含め9割の人間が感染。日本政府は船を見捨て、自衛隊特殊部隊を編成し、全てを焼き払った。


 だが、感染源はアジア大陸にあり、世界中で広まったのち、ゾンビ化ウイルスは在日米軍の甘い防疫体制を突破して、日本に再上陸した。


 高校生ソウジの住む街は崩壊した。ゾンビから逃げ惑う車で道路は大渋滞に陥る。ガス欠や電欠で停車した車が車線のほとんどを塞いだ時点で、道路はその機能を失った。水と食料を求める人々が決死の思いで車外に出た時、外にいるゾンビを媒介として、感染は瞬く間に広がった。


 父も母も帰らなかった。電気供給が途絶え、都市ガスと水道だけが機能している。ソウジはマンションの部屋に籠城し、湯を沸かして風呂場で過ごしていた。最後にネットで見た情報では、ウイルスは60度以上の湯で死滅する。ガスで湯を沸かし、風呂場を滅菌し、加熱した食料のみで食いつないだが、食料はもうない。


 ソウジは、滅菌され、食料を保管している施設はないかと考えた。


 動きやすい服に着替え、ロードレーサーの自転車に乗る。全力で漕いでも時速30キロがせいぜいだが、のらりくらり徘徊しているだけのゾンビを振り切るには有効だった。しかしそれよりも、ウイルスのほうが怖い。アメリカのジョーカー大統領が莫大な予算を投じてワクチン開発に乗り出したとの報道を見たのが一週間前だ。


 近くのコンビニやスーパーは、食料を求めた一般人によってすでに崩壊していた。交通網は遮断され、物流は途絶えている。

 ソウジは地域の総合病院を目指すことにした。病院ならば滅菌する方法はいくらでもあるはずだ。食料はわからないが、人のツテが欲しかった。


           ・


 病院は静まり返っていた。入り口はバリケードで封鎖され、鉄条網が張られている。しかし、ガラス張りの内側には、人の気配があった。「入れるところはないのですか」と叫ぶが、反応はない。


 ソウジは自転車を停めて、裏口に回った。救急車が緊急搬送を受け付ける入口があったはずだ。果たして、そこには鍵がかかっていなかった。


 入口を入って数歩、声をかけるが返答はない。扉を抜けて廊下の奥に出た時、後ろから現れた人の波で退路が塞がれた。前からも人の波が現れ、ソウジに手を伸ばす。瞳に意志が感じられない、目が虚ろなゾンビたちだ。


「うわああああ!噛まれる、食われる!」


 ソウジが悲鳴を上げた時、「やめ。」という声が聞こえた。

 ゾンビたちはソウジからそっぽをむき各々勝手にバラバラと蠢き出す。前のゾンビの波が割れ、白衣の女が前に出てきた。


「なんだ、人間か。」

「あんたは? なぜおまえはゾンビに襲われないんだ?」

「ワタシはヒスイという医師だ。こいつらは、ロメロ・ウイルスにやられた亜流ゾンビじゃない。」


「亜流?」

「昔、ブードゥー教の呪術師ボコールから直接教えてもらった、正統派ゾンビでな。産婦人科に保管してあった堕胎嬰児を原料にゾンビパウダーを作った。医薬品が枯渇して患者が亡くなる直前に、それを投与して作ったのが、こいつらだ。」


「正統派ゾンビは死なないし、ロメロ・ウイルスに感染もしない。肉体を動かす魂『ナーム』と肉体『コールカダブル』に人の魂『グロボンナジュ』を召喚してある。ブードゥー教の教え通りに呪術師ボコールのやったことと同じだ。」


「噛まれたら俺はゾンビになるのか?」


「それはない。亜流のジョージ・A・ロメロ・ゾンビじゃないから、噛まないし感染もしない。」


「じゃあ、このゾンビたちは何なんだ?」


「ワタシの忠実なしもべ、労働力、戦闘力というだけだ。正統派ゾンビというのはそういうものだぞ。」


「もしかすると、ここが人類最後の砦かもしれんな。よくたどり着いた、少年。」


 白衣の女から握手の手が伸びる。


「ソウジだ。」


 ヒスイのもと、ソウジは生き残るための戦いに参戦することとなった。


 俺たちの戦いはこれからだー!




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ゾンビの起源

https://www.hus.ac.jp/hokukadai-jiten/detail/c0603dbe9be3a84a3c9f718ce94d47237e64f75c-18874/#fS3P5QIi

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ブードゥーの秘術 大電流磁 @Daidenryuji

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