22歳 下がったままの深夜の踏切

 特に頭が良いわけでもなく、馬鹿でも入れるような高校を卒業し、時期的にバブルの絶頂期であったことから、高卒でも上手くIT企業に就職できた。


 本当は絵を描くのが好きで、近所の悪友の祖父が日本でも有数の版画家であったことから、その画家に師事を願い出たが才能がないと断られ、元父の紹介でプロ画家の教えを請い、諦めきれずに受けた芸術大学に合格できず、しかたなく就職の道を選んだ。


 幸い中学生から当時のパソコンに興味を持ち、自分で色々とプログラミングをして雑誌に掲載されたり、高校生の頃には販売されているゲームソフトのプロテクトを外すという、今だと違法に当たるソフトを作り販売していたことからITの適性があり、ITの会社に入っても他の同期よりも早く順応し、色々な仕事をさせてもらえるようになっていた。


 ただ、元来人見知りで、同期よりも変に仕事が出来ることから距離を置かれ、会社関連で飲みに行くのはほんの数人で、殆どの休日は中学生時代に仲良くなった悪友達とカラオケに行き、朝まで唄っていることが多かった。


 その日も中学生時代の悪友達5人と深夜までカラオケで飲み、唄い、そしてその日はトミーが体調が悪いという事で解散、いつもなら始発の時間まで騒いでいるのに珍しく深夜の解散となり、帰路につくことになった。


 帰り方向が同じ友人のセイと歩きながら線路沿いに自宅に向かう、他の友人たちはそれぞれバイクや自転車で先に帰ってしまった、飲酒運転?その時代は結構当たり前だった気がする、いまなら重罪だが。


 途中で24時間やっている牛丼屋に入り、牛丼とビールを頼んで帰る前の腹ごしらえを済ます。


「なぁ、xxは原付免許もってたよな、車の免許はとらへんの?」


「……ああ、一回教習所に通ったんやけど、教官が最悪で、ドツいたらもう来るな言われてん、出禁や」


「うわぁ、俺、そろそろ免許取って車欲しいなおもてんけど…」


「……やめとき、セイは俺より鈍臭いし、絶対事故るで、先に原付取ってスクーター乗ってみたら?」


「でも、車の免許取れたら原付も乗れるやん、お得やろ?」


 セイは高校卒業後、簿記の専門学校に通い、かなり大手の食品メーカの経理として入社した、専門学校時代からいち早く就職している自分達とキャバクラに通っていたが嬢に貢ぎ、片想いが重すぎて仲間内では唯一彼女を作った経験がない、可哀そうなのでソープランドに連れて行ったら今度はそこの嬢に貢ぎだし、それでも交際を断られるという剛の者だ。


 当時通っていたキャバクラ嬢からも、セイからの愛が重すぎて辛いと何度も相談を受けた経験がある。


 高身長で色が白く、鼻が日本人の平均より高いのでイケメンの分類に入り、また大手企業の経理という安全安心なポジションに居ながら、今で言うストーカー気質で粘着が激しく、毎日気に入った嬢に恐ろしいほどのメールを送信する、そんなセイに彼女が居ないのは仲間内では平常運転だった。


「……そんなこと言うて、どうせモテたいから車欲しいんやろ?アカンて、お前は恋愛向いてないから」


「いや、自分でいうのもなんやけど、俺、それなりに条件いいやん、あとは車があったら多少難があっても俺の事好きになってくれる娘がいてもおかしくないかなぁって」


「……そもそもセイは水商売の嬢ばっかり好きになるやん、OLと合コンしても全然興味ないし、向こうから来る女は嫌いやろ?」


「そんな事は、ううん、俺ちょっと面食いやねん、やっぱり付き合うんやったら美人がええやん?」


「……ちょっとやないと思うで、ほな、そろそろ出よか」


 その1年後、免許を取ったセイはウチの実家に新車をめり込ませ、さらに数十年後場末のスナックで本人の好みとは全然違うタイプの嬢に押し切らて結婚することになる。


 2人で他愛のない会話をしながら車も通らない深夜の道を電車の線路沿いに歩いて行く、歩くこと一駅程度の距離で、踏切を渡ろうとしたら、突然カンカンカンッと踏切が鳴りだし、目の前に遮断機が下りてきた。


 踏切の近くには線路沿いの小川、踏切の向こうには墓地が見える、この墓地は比較的新しく、あの小さな山にある墓地とは違い墓石も新しい物が多いし、桜塚もない。


「うわ、ついてないな」


「…まあ、直ぐに上がるやろ」


 酒が入っていたこともあり、深夜に踏切が鳴り、遮断機が下りた事に二人とも全く不審に思わなかった。


「はよ電車通らへんかな?」


「…ホンマ、遅いなぁ」


 そもそも深夜に電車は通らない、まあ線路検査の車両とかが通る可能性もゼロではないが、いくら待っても車両が来る気配も何もない、ただ、踏切がずっとカンカンと鳴っている。


 5分以上待たされ、流石に何かがおかしいと感じだした。


 携帯電話で時間を確認すると深夜2時を過ぎている、やっぱりこんな時間に踏切が鳴るのはおかしい……


「……おい、そもそもこんな時間に電車通らへんよな?」


「踏切が壊れたんかな?」


「……どぉする?回り道になるけどもっと線路沿いに降りてそこから帰るか?」


「はぁ?面倒臭いやん、電車来てへんねんから、遮断機無視して通っていこうや、もう眠いし遠回りも嫌やわ」


 そう言うと、セイは遮断機に跨り、線路を渡っていこうとする、自分も慌てて、遮断機の下を潜り線路上に出た。


「……ッ!?はぁ???」


 自分が線路上に出た時に見た光景は、何とも言えないものだった。


 明らかに生き物とは思えない異形、不自然に伸びた手足、絡まりあった身体、苦悶に歪む表情、生者とは思えない青白い肌の色、人間の死体を冒涜的に引き延ばし、無理矢理に絡めたような長細い沢山の物体、それがまるで、電車のように絡まり固められ、繋がったソレがビクビクと動きながら線路沿いに行進していた。


 その動きは速く、本物の電車のように流れていくが、その中からいくつか手が、自分の方にひらひらと伸びてくる、それがいつ終わるのか?後ろの方を見ても途切れているように見えない、ただ、青白い引き延ばされた人体の塊がドロドロと線路伝いに流れ、進んでいた。


 自分は尻餅をつき、そのまま線路から後退して踏切まで戻ると、そこにはそのまま線路を突っ切って踏切の向こう側に辿り着こうとするセイの姿が見えた。


 先ほど見た異形の塊は何処にも見えない、でも、変わらずに踏切はカンカンと鳴り響き、遮断機は下りたままだ。


「……セイッ、無事か?」


「んん?xx何言うてるん、ほら、


 セイには何も視えていなかったのか、彼は何も気にすることなくそのまま線路を渡り切り、遮断機を越えて向こう側に辿り着いた。


「ほら、xxはよ帰ろうぜ?電車は通ってないし、大丈夫やから」


 自分の名を呼び、線路の向こうからセイが呼ぶ、セイは何も感じなかったし、視なかったみたいだけど、自分は違う、視て、反応してしまった。


 きっと向こうも、異形も自分が反応した事に気付いている……


「……お、俺はええわ、このまま駅の方まで降りて帰るし、ここで別れよか」


「なに言うとるねん、はよ、xx!お前の事じゃ、はよ来い!!!」


 セイの表情が変わり、怒り出した、セイは滅多な事では感情を表に出さない、そのセイがこんな事で怒り出すのは珍しい、いや、おかしい……


「xx!お前は、はよ渡って来い、ほら!来い!xx!」


「……セイ、俺はここでこのまま降りて帰るから、お前もちゃんと帰れや?またあとで電話するし!」


 自分は、怒り散らし怒声をあげるセイをそのまま置いて、逃げるようにというか、逃げて実家まで走って帰った。


 久し振りに見た異形、それもあんなに沢山、それに普段とは違うセイの表情や言動、結局朝まで眠れずに、日の出とともにセイの携帯電話を鳴らして安否を確認することにした。


 コールする事10回と少しし、電話が繋がる。


「……セイ、無事か?」


「ん、ああ、何言うてるんxx、おお?ここ踏切やん、お前俺を置いて帰ったんか?」


「……いや、お前が踏切渡っていったんやけど、俺はちょっと怖なって遠回りして帰ったんや、お前、踏切鳴ってるのに越えて渡って行ったん覚えてるか?」


「あ~、なんかそんな気がするわ、踏切越えて、電車来てないからそのまま渡って、???」


「……お前が渡った後、俺にも渡れ、渡れって怒り出してな、なんかいつも違って怖かったから別れて帰ったんや」


「そんな事言うたっけ?全然記憶にないわ、っていうかほな俺、そのままこんな墓地の横で今まで寝とったん?」




 ざ、ざざ……

 ……もうすこし……

 惜しかった……





「……ん?なんか言うた?」


「いや?なんも?まあ一応電話して起こしてくれたんやし、ありがとうな、俺も帰るわ」


 後日、セイの中では深夜になっていつまでも戻らない壊れた踏切の話、として仲間うちでその話がされた。

 皆はそんあことあるんや、と不思議がり、また渡ってから寝るとかどれだけ酔っぱらってたのかとセイを揶揄い、渡らずに別の道で帰った自分を弱気と揶揄ったが、中学生の頃に墓地で異様な経験をしたトミーだけは、xxとおったらヤバイ目に会うんちゃうか?と自分の事を少し気味悪そうに見ていた……







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【実話+脚色】怪談短編集 榊ジュン @jun-sakaki

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