虫退治

Zamta_Dall_yegna

虫退治

 南の国、大地に枯れ草が吹き寄せる場所に、トムソンという男がいた。そこの人々は飢餓や病気に苦しんでいた。彼は北国の出身で、人の命を救うべくこの国にきていた。


 トムソンは辺りを見て違和感を覚えた。やけに静かで活気がないのだ。

 ―子供が異様に少ない。何故だ? ―

 彼は異変の原因を探しに、荒野へ出た。


 小さな黒い肌をした子供が逃げ回るのが見える。白くてブヨブヨした虫にたかられている。1人が全身を覆われて、意識を失う。虫の女王があとからやってきて、頭部以外を食べ尽くしていた。他の小さい虫は、子供のところを離れて、どこかへ移動していた。


 トムソンは驚きを隠せなかった。どうにか助けようと、虫の向かった場所へ移動した。すると、そこには、安全なキャンプの中にいる子供と、外にいる7人の子供たちがいた。外にいる子供たちは、地面を叩いて遊んでいた。


 トムソンの手持ちは、応急セットとロープ、食料、水、虫よけスプレー、ライターだ。この中で虫倒せそうなものは、ライターだろう。だが、倒すまでには時間がかかる。


 安全なキャンプの中にいる子供を連れてくれば、彼は虫に襲われるが、虫を倒す時間は稼げる。

 ―どちらも助かる方法は無いのか―

 今にも虫が動いている中、トムソンは必死に考えた。キャンプの中の子供が彼の目に留まる。どうやら、外にいる子供たちを見て笑っているらしい。トムソンは彼に軽く挨拶をして、話しかけた。

 「やぁ、僕は観光客のトムソンだ。笑っているのが気になって来てしまったよ。何か面白いものでもあったのかい?」

 「あいつらだよ。外にいるあいつら。バカだよね。虫が沢山いるっていうのに、外に出てさ。ま、音楽で遊びたいなら外に出なとか言っちゃった俺も悪いんだけどさ」

 彼は肩を動かして、「悪いね」いったと顔をした。虫の歩く音がキャンプの中まで聞こえてくる。トムソンの眉間には皺が寄っていた。彼は強引に子供の腕を引いた。

 「ちょっと、なんだよ!悪かったって言っただろ!」

 子供が騒ぐいだが、トムソンは無視して歩き続けた。子供を虫の近くに連れていくと、トムソンは虫よけスプレーを彼にかけた。そして、彼は袋からライターを取り出して、虫が来るのを待った。


 地面は緑と赤の汁で汚れていた。近くには幾つかの虫の残骸があり、そこにトムソンだけが立っていた。遊んでいた子供は家に帰ってもういない。トムソンは濁った目に残骸が映る。夕陽が彼の全身を赤く染めていた。


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