赤いプール

赤いプール

　私は生まれつき青が嫌いだった。

　何でかなんて分からない。

　ただ、私は青色が大っ嫌いで青空の日は外なんて出なかったし、海や湖なんて行きたくなかった。

　でも生きている以上、私は外へ出なければならない。

　嫌だった。

　青色の物に触れる度に体中に蕁麻疹が起こり、吐き気と腹痛に襲われる日々が。

　空を見るたびに目眩がして、倒れそうになる日々が。

　両親はそんな私の事をとことん憎み、なんで普通になってくれないのと罵り、私を無理矢理青色に触れさせた。

　学校では吸血鬼だとからかわれ、何度も青空の中外へと出された。

　俺に逃げ場は無い。生きることが地獄だ。

　俺はずっと、そう考えていた。

　今日…この日までは。

「お〜い吸血鬼！　お前水も怖いんだってなあ！」

「うい〜！　これでもくらえ〜！」

「キャハハハハ！！！！」

「ガ……止め…」

　夏休みの日。

　教室へ忘れ物を取りに行こうとした時、私は偶然側にいたいじめっ子達に捕まった。

　そして連れ去られるように引っ張られ、アレヤコレヤと学校にあるプールまで連れてこられた。

　その後いじめっ子達に囲まれ、逃げられず頭をプールに突っ込まれる。

　何度ももがくが逃げられない。

　何度もプールに顔をつけられ、何度も息が途切れそうになる。

「おらあ！　何寝てんだお前！」

「イエーイ！　もっとやれもっとやれ！」

「キャハハハハ！！！！」

　男達のウザったらしいノリノリの声と、下品な笑い声が耳に入る。

　……なんで、なんで私がこんな目に。

　お前達は何とも思わないのか？

　青色を見て異常だと、恐ろしいと思わないのか？

　青が怖い。青が嫌いだ。

　水に触れた個所がどんどんかぶれていき、蕁麻疹が現れる。

　その様子を見てまたコイツラは嗤い出す。

「うわうわ！　またかぶれてきたぜこいつ！」

「キッショ！　蕁麻疹出てるぜ！」

「キャー！！！」

「う……ぅぅ……」

　怖い…。嫌だ…。これ以上青に体を晒したくない。

　嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ。

　嫌悪感が、思考を塗りつぶす。

　そして次の瞬間、私はいじめっ子に殴りかかっていた。

「なっ！？」

「はあ！？」

「キャー！！！！」

　今までいじめられてきた中で初めての反撃。

　いじめっ子達は反撃できず、リーダー格に私のパンチが当たった。

　私はすぐにプールサイドへ逃げ、出口へ逃げようと走り出す。

「逃さねえよクソが！」

「うわっ！」

　だがすぐにプールへと投げ込まれ、再び囲まれた。

　何度も何度も殴り続けられる。

　いじめっ子達が飽きるまで、私は殴られ続けた。

「よ〜し。楽しめたし俺らは帰るか！　おいお前！　こいつプールサイドに上げておけ」

「あいよ〜」

　いじめっ子達がプールを出る。

　残った一人のいじめっ子は、私をプールサイドに上げた。

　こちらを侮蔑の目で見ている彼は、更に一発。私の腹を殴る。

「おらあ！」

「ぐふっ！」

「へへ。本当に良いサンドバックだよ。お前はな！」

　腹を殴られ、衝撃で私は顔を上げた。

　……そして見た。

　私の血で本来青色だったプールが赤く染まっているのを。

　そのことに気づいた瞬間、全身の震えが収まり、蕁麻疹が引いていく。

「はっ………はは」

　これだ。これだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだこれだコレだコレだコレだコレだコレだコレだコレだコレだコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダコレダ。

　こうすれば良かったんだ。始めから…こうすれば良かったんだ。

　ゆっくりと、私は起き上がる。

「……ん？　何だよ。まだ殴られたりないのか？」

　ケラケラと笑いながらこちらに近づいてくるいじめっ子の顔面を、私は躊躇なく殴った。

「あは…。はははははははははは！！！！！」

「ひっ！」

　何度も何度も私は殴り続ける。

　最初の頃は震えて反撃しようとしてきたが、次第にいじめっ子は体が動かなくなってきた。

　だが私はそんなこと気にしない。

　もっと血を流せ。このプールすべてが赤で染まるように。

　いじめっ子が完全に動かなくなっても、私は気にせず殴り続けた。

　そして死体をプールの中へ投げ込む。

「……次は」

　午前のニュースをお伝えします。

　現在。〇〇県✕✕市。□□中学校でプールに十数人もの遺体が棄てられているという事件が発生しました。

　プールの開放期間に発見され、最も古い遺体は5日程前だと判明しています。

　中には中学生の遺体だけでなく、生徒の両親の死体も発見されており、警察は現在行方不明となっている生徒達の行方を追っています。

　犯人は今も捕まっておらず、警察は最大限の警戒を取っているとのことです。

　続報が入り次第お知らせします。