うすよい。

豆ははこ

酔える? 酔えない?

「ブランデーケーキ、食べられないんですよ。お酒に弱いから、酔っぱらっちゃうんです。ブランデーが染みすぎてて」

 へええええ。

 そういう人もいるのかあ。

 適当につけたテレビの情報番組で、ためになるなあ、なんてこともあるんだ。


 そう言えば、入社した年の飲み会。

「下戸なのかな? ほとんどのめなくて。乾杯、の一杯くらい、全部のみたいよね」って言ってた同期の男子がいたなあ。


「グラスにほんのすこーし。すこーしだけ入れたら?」って話したら、すごく嫌な顔されたっけ。

 そのあとはそのビール瓶をわたしに寄こせ、みたいなそぶりをしちゃったから、よけいに嫌だったのかも。 


 そのまま隣の席、だったからなあ。

 最初はいろいろ、聞かれてたんだけど。

 だんだん、会話がなくなっていったんだ。



 ……冷蔵庫に、お酒、まだあったかな。


 あ、あった。

『うすよい』。

 のみたい、でも、のめない、みたいな人にいいらしいお酒。

 そりゃ、ほんとうにのめない人とか、20歳以下の人にはこれものませちゃだめなんだろうけど。


 コンビニのレジ横のくじで当たって、店員さんが持ってきてくれたやつ。20歳以上対象の、お酒ありの箱から引いたら、こうなった。

 桃が中心にかわいく描かれていて、全体がピンクできらきらしてて。ネイルみたい。

 見た目はかわいくて、気に入ってる。

 

 冷蔵庫開けるときに、彩りになってたし。


 ……で。

 いざ、開缶かいかん


 あまあい……。


 どうしよう、これ。

 うすよい? うそだあ。

 これじゃ、酔えないよ。ブランデーケーキがだめな人とか向け?


 勿体ないなあ。そう思って。

『うすよい』『甘すぎる』『どうしよう』

 スマホで検索したら、炭酸水で割るといいって。


 炭酸水……あ、炭酸水じゃないけど、ソーダ水がある。冷やしてないけど。

 うすよいをグラスに注いで、それからソーダ水を入れる。


 のむ。

 ……うん。まあ、のめる……かな。


 わたしが、もしも。

 うすよいくらいならのめるんだけど、みたいな女子だったら、あのときの同期男子とも、お付き合い、とかになっていたのかな。


 入社三年目の、今。

 あの同期男子と付き合ってる同期女子、『甘いの好きで』とか言って、カルアミルクとかサワーとか。

 何杯ものむ子だけど、大丈夫なのかなあ。


 思い出した。

 あのときの飲み会。

 わたしのジョッキと、同期男子のジンジャーエール。

 店員さんに間違って置かれて。 

 すぐ取り替えたのに、不機嫌になってたよね、確か。



 ごめんね、うすよい。

 よえないよ、ごめん。


 やっぱり、コンビニ行こう。


 ビール500ミリ、何本買おうかな。

 おつまみは……レンチンの餃子、それとも、さけちゃうチーズ?

 なににしよう。


 あ、アイスコーヒーとかの、カップの氷!

 あれ買ってきたら、おいしくなるかも、うすよいソーダ水。

 冷え冷えの、うすよいソーダ水だ。


 そうと決まれば。

 テレビを消して、スマホだけ持って。


 あ、アプリのメッセージが。

 あれ、あの男子とは別の、同期男子からだ。


『今度、二人でのみに行きませんか』


 なんで、敬語なのかな。

 意味を考えようとして、めんどくさくなった。


 けど、冷え冷えのうすよいソーダ水がおいしかったら。


『冷えた日本酒、おいしいやつ。のませてくれるなら、いいよ』って返事をしようかな。


 うん、するかも。


 なんだか、酔えなくても、楽しくなってきた。


 だから。


 レンチンの餃子に、シューマイも足そう。

 



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うすよい。 豆ははこ @mahako

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