7 その後
たった二晩だった。
私はあの部屋で暮らすことに耐えられなかった。
もしも、M原の口車に乗せられず、正常な判断が出来ていたなら、あの部屋で暮らそうなんて判断はしなかったはず。
事の顛末はとても情けないもので、私は実家に逃げ帰り、しばらくはそこから大学に通うことになった。が、到底通いきれる距離ではなかった。
たった二晩あの部屋にいただけで、私は一人暮らしができなくなった。逃げ帰ってからしばらくの間は、一人で過ごすことさえままならない日々が続いた。
結局、まともに大学にも通えず、私は大学を中退することになった。夢や希望があり、編入学までして通っていたはずなのに……。
ほんの少しの判断ミスで、こんなことになってしまうとは。何度も悔やんだが、世の中にはどうにもならない事もあるのだ。
それから数年の時が経ち、ふと思い立って事故物件検索サイトなるものを見たことがあるが例のマークはなかった。ではあのときKに聞いた話はなんだったのだろうかと思い、マップでも検索をしてみた。それによると、あのアパートは今では分譲の物件はなく、名前を変えて賃貸物件として残り続けているそうだ。
口コミを辿っていくと、一部屋だけ窓をベニアで封をしてある部屋があり、どうやら賃貸に出されている様子がない、という記載があった。
そこで調べるのを止めた。いたずらに思い出す必要なんてない。
ただ、未だに一人でいるとあの水音が聞こえる気がする。そしてなにより、あの臭いを忘れることがどうしてもできない。
怪談語り 理唯 @padawan-panda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。怪談語りの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます