天宮 憶澄のちょっと怖い話

リンネ

第1話

 ある日の夕方。

天宮家・オクトの部屋にて。


 おや、何かありましたか?私の部屋に来たと言うことは……どこか分からないところでも?


 え?怖い話を聞かせて欲しい……ですか?

ふむ、どんなものでも構わない……。そうですね……


 怖い……話かは分かりませんが。ちょっとだけ怖い話ならありますよ。


これは、私が中等科で体験したお話です。


    ーーーーーーーーーー


 その日は、いつものように帰りの挨拶をして、校門を潜って、天宮家に帰宅しようとしてました。ですが、忘れ物をしている事に気がついてしまった。


 筆箱を、机の中に忘れていました。バカですよね。大事なモノを忘れて、それに気づかず帰ってしまおうとしていた。


 愚かな自分を心の中で呪いながら引き返し、再度校門を潜って、校舎に入っていった。


 まぁ。中等科と言えど、その時は一年生でしたから、迷子になりかけながら教室に辿り着いたのですが……。ですがその道中、嫌な感じがしていたんですよね。


 え?どんなのかって?それは簡単ですよ。誰の気配も感じなかった。普通、放課後なら部活動をしている生徒の声や、廊下を歩く先生の姿など。見かけても可笑しくないモノたちが皆、見当たらない異様な静けさ。


 心臓の鼓動と、私の足音が耳に入って来くる程に静かだった。とても足音と鼓動がうるさく感じましたよ。そして、心なしか空気が冷たかった。


 怖さのあまり、自身に『怖くない』と、催眠で暗示を掛けようかと思いましたがやめました。


 だって、ビビりな男だと言う烙印は押されたくないですから。嫌でしょ?ビビりだって知られて、からかいの標的になんてされたくない。


 ゴホン。話を本題に戻しましょう。それらを不思議そうに思いながら教室へと、私は辿り着いた。スライド式の扉を引いて中に入る。


 すると、教室の一角、黒板近くにある机に一人の少女が座っていました。


 怖がりながらも好奇心に負けた私は、恐る恐る少女に話しかけてしまった。


「どうしたの?帰らないの?」


 私の声を聞いた少女はこちら側へ顔を向け、口を開く。


「君、一人?一緒に遊ぶ?こっちで遊ぶ?」


 とても恐ろしい表情だった。口が裂けるんじゃないかと、心配に成る程、口角を高くあげていた。血色の悪そうな顔だったから尚更。


 恐ろしくなった私は無我夢中で走った。怖くて走った。何も考えずに、天宮家まで走った。


 天宮家についた私は、一心不乱に玄関の扉をノックする。扉を開けてくれたのは、メイド長だった。


「オクトちゃん、どうしたの?こんなに慌てて……何かあったのかしら?」


 メイド長の声を聞いた途端、私は泣き出してしまった。


「お、俺ッ……俺……ッ!ヒッグ、学校でッ……!」


「あらあら、こんなに泣いて……。大丈夫よ、大丈夫。ほら、こちらへおいで」


 優しく抱き締めてくれるメイド長。


「怖い事があったのね。もう、大丈夫。さぁ、中に入ってバタフライピーでも飲みましょうか」


「うんッ……!」


 その後、念のため私はハヤト様と一緒にお祓いに出掛けました。ハヤト様曰く、その時は『逢魔が時』だったそうなんです。ただの迷信にすぎないと思っていたのに、本当に起こるとは……。


 内心驚いていますが……でも、本当にそうなんでしょうか?


 本当に『逢魔が時』の影響で幽霊が見えてしまったのか……。それとも、もっと他の別の理由があったとか……。


 別の理由?簡単な話ですよ。中等科の校舎が建てられる前に何かあったとか。建てた後に何かあったとか。


 想像だけが膨らみますね。まぁ実際、どれが本当かどうかは知りませんが……。知らない方が良いのでしょう。


 世の中には、知らない方が良い事だって一つや二つあるモノですからね。

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天宮 憶澄のちょっと怖い話 リンネ @rinne7023

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