隣の席の女神様
晦 雨夜
第1話 優しい女神様は本当に真面目なだけなのか?
ある日、久しぶりに高校の卒業アルバムを見返していると、懐かしい記憶が蘇ってきた。
良い出来事も悪い出来事もたくさんあったが、今となってはどれも笑って話せる思い出だ。
……そういえば、そんな俺の高校生活で、未だに真相のわからない不思議な出来事があったのを忘れていた。
そう、当時俺のクラスには、まるで女神様のような女子生徒がいたのだ――
「おーい、悠翔君。もう移動教室の時間だよ」
昼食後に気持ちよく寝ていた俺――
「……ん?……あぁ、ありがとう。
毎度のことながら申し訳ない」
「いいのいいの。
悠翔君が授業に怒られちゃうのをただ見てる方が気分悪いしね。
それよりほら、喋ってたら本当に遅れちゃうよ!」
そう言って少し速足で教室を出ていく彼女は
先に言っておくが、付き合ってるわけではないし、幼馴染だとか家が近いとかでもない。
もちろん、よくある片方が転校生で~みたいなこともなく、ただのクラスメイトで今は席替えの結果隣の席になった、というだけの話だ。
……まぁ、こうして律義に起こしてくれるのは初めてじゃないが、基本的に誰にでも優しい「ザ・優等生」と言うべき生徒だからではないか、とこの時の俺は考えていた。
(俺が逆の立場なら、何度も起こすようなことはしないだろうけど、世の中こんなにまじめなやつがいるってマジ尊敬だわ)
彼女のおかげで無事に授業に間に合ったわけだが、どうにもさっきの考えがまだ頭の中をぐるぐるしてる。
(そもそもさ、いくら他人に親切にする優等生とはいえ、彼女のそれはちょっと異常じゃないか?)
例えばだけど、学生間での親切ってどんなものがあると思う?
あまり規模は大きくないけど、教科書を忘れた時に横の人が見せてくれるとか、シャーペンの芯が切れた時に貸してくれるとか、消しゴムを落とした時に拾ってくれるとか。
もう少し幅を広げるなら、何かの当番を変わってくれるとか、先生からの頼みごとを手伝ってくれるとか、そんなところだろうか。
別に、この中の1つや2つなら、誰しも経験したことがあるんじゃないかと思う。
……だけどさ、もし、これら全てを経験していて、なおかつ助けてくれる相手が毎回同じ人だとしたらどうだろう?
人によっては、不気味だと感じることもあるだろうし、もしかして自分に気があるのかも?と感じる場合もあるかもしれない。
俺もそういう要素を探そうとしてみたことがあったのだが、彼女に関しては冗談抜きでいろんな人にこうした親切を分け与えていたのだ。
そんな姿を見てしまっては、自分にとって都合の良い考えを持つってのは難しいだろう?
(……俺に本当に必要なことは、彼女の手を借りない生活をしろっていう単純なことなんだろうけど)
結局のところ自分はあれこれ考えているようで、単に彼女の優しさに甘えているだけなんだろうなと気が付き内心で自嘲が混ざる。
ふと気になって彼女の様子を横目で見てみたが、相変わらず消しゴムを使い切ってしまったクラスメイトに予備の消しゴムを貸しているようだ。
そんな光景がクラス全体で浮くことが無いのは、きっと彼女の人柄のおかげもあるのだろう。
だから俺は、彼女に助けられることが増えた頃から彼女のことを「女神様」と内心で呼ぶことにして、感謝だけは忘れずに伝えるように徹底していた。
さて、ここまでの話だと、特段不思議な出来事とは思えないだろうが、本題はここからである。
いくつか例を挙げてみようか。
例えば、学生時代のイベントの1つに席替えが挙げられる。
地域や学校によってやり方はバラバラだろうが、俺の学校は番号の書いた紙を引く方式だった。
基本的にこれは一発勝負で、後からここがいいという変更はできないのだが、稀にこれが許されることがある。
目が悪いから前じゃないと見えないとか、前の人の身長が高くて黒板が見えないとか、そういうやつ。
こうした席替えを月に1回やっていたんだが、不思議なことに2~3回に1回は女神様が横にいたんだ。
いや、単に運の問題と言ってしまえばそれまでだが、気になるのはその理由。
毎回誰かしらがその席で授業を受けるのに困るという理由によって、席を入れ替えた結果だったんだよ。
もちろん女神様が親切だからという理由も関係するが、それだけじゃ説明できないと思わないか?
少なくとも、俺の横に座った生徒が何かしら問題を抱えて、それを解決するために席を変わった女神様の最初の席が、その問題を抱えた生徒の希望に沿った席でないといけない。
これが1年間でそれなりの回数起こっていたと考えると、流石に何かしらの意図が介入してると疑ってしまうのも無理はないだろう。
それもこれも、席替えの後にこんな会話に発展しなければの話だが……
「お、悠翔君とは隣になること多いね!
折角の席替えなのに、隣の景色が変わらないと退屈かもしれないけど……」
「いやいや、退屈なんてとんでもない。
むしろ、俺がいつも助けてもらってるからこそ、いつも以上に迷惑かけないか俺が心配なくらいだよ」
「それこそまさかだよ!
せっかく同じクラスになったんだし、みんなと仲良く過ごしたいからね。
何はともあれ、よろしくね!」
……な?とてもじゃないけど邪推なんてできるわけないって。
何より、結局何もなかったというか、特別な理由は見当たらなかったから、こうして不思議な出来事として話すに至ったわけだしな。
他にはこんなこともあった。
学生時代の悪夢とも呼べるテスト。
これって、せいぜい1番得点の高い人が誰だったかとか、最高が何点だったかみたいなことは公表されても、個別に誰が何点かなんて、休み時間に話さない限り知る機会はないものだ。
俺自身、そこまで勉強が得意な立場ではなかったから、いつも点数は濁して話すことが多かった。
それなのに、女神様は的確に俺の苦手分野を当ててきて、教えてあげようか?と言ってくれたことが、正直数えきれないほどあった。
一応補足しておくと、これまた俺だけにってわけじゃないからな?
ただ、俺って女神様と点数の話なんて基本しなかったし、点数部分を折り曲げて回答用紙を見せるようなこともしたことが無かった。
むしろ、回答用紙はすぐにカバンの中に入れてしまうから、変な話俺のカバンを開けない限り、採点した先生以外は点数を知りようが無い状態を作り上げていたわけだ。
それでもなお、回答用紙が配られた後の休み時間にこんな会話になったらどう思う?
「今回のテストはどうだった? 私はいくつかケアレスミスしちゃったよ」
「あー、俺はまぁいつも通り、可もなく不可もなくだよ」
「そっかー、悠翔君のことだから、てっきりこことかここの問題は苦手なんだろうなって思ってたけど、今回は無事に乗り切れた感じかな?」
「……いや、そこはまさに苦手だったから最初から捨ててたわ」
「あ、やっぱりそうだったんだね。
もしよかったら、今度ここの部分教えようか?
ちょうど私の復習にもなるし」
「いやいや、流石にそこまでしてもらうのは悪いからいいって」
「遠慮しなくて大丈夫だよ?
何事も学ぶことと教えることのバランスが大事だからね。
私にとって振り返る機会になるってのも本当のことだよ」
……うん、やっぱり女神様ってすげぇわってなるだろ?
この手の話は挙げ始めるとまだまだ出てくるから、流石に長くなるし一旦ここまでとしておこう。
それより、実際この話を聞いてどう感じた?
俺自身、どうしてここまでしてくれるんだろうなと思うことは何度もあったんだ。
ただ、決定的な何かも見つからないし、あくまでもみんなを平等に助ける中の1人だっただけなんだと、最早そう考えるほかなかったというのが正直なところ。
……いや、正確には1つだけ証拠になる可能性のある話が、偶然クラス内の会話で聞こえてきたことがあったか。
「ねぇねぇ、知ってるー?
紗弥ちゃんの家って神社らしいよー」
「え?そうなの?
……もしかして、巫女さん姿の紗弥ちゃんが見れる?」
「そこまではわかんないけど、お父さんが神主さんだからよくお手伝いしてるって、この前聞いたんだー」
「まじか、じゃあ俺、今度その神社にこそっと行ってみようかな」
みたいな内容だったはず。
その時は、なんかクラスメイト同士が盛り上がってんなとしか思ってなかったから、別に本人に確認することもなく終わった話題でしかないんだよな。
仮にこれが本当だとしても、親の手伝いをする優しい子供というだけで、俺の体験している不思議な日常の答えにはならないだろう?
それともいっそ、神社のお手伝いをしてるから何か神様の加護を受けていそうとでも言うか?
……それこそまさかだ。
いくら何でも、そんな非日常にまで話を広げてしまったら、もう際限無しになってどうしようもないじゃないか。
それに、率先してクラスメイトの手助けをするんじゃなく、周りから何かと助けてもらえる方が運が良いと言えそうだから、これじゃあ逆なんだよな。
さて、少し話が逸れてしまったが、こうした女神様の周囲への優しさというのは、まさに見返りを求めない本当の親切だったのだと、当時の俺は納得することにしていた。
女神様とは高校2年~3年の2年間同じクラスだったこともあり、3年に進級するようなころには、既にその環境に慣れきってしまったというのも大きい。
気になる人が1人でもいたら悪いから先に言っておくと、女神様から告白された、もしくは俺が告白したということは無かった。
別に、周りからお似合いだと思うけどなぁといったお決まりのいじりも無く、ある意味青春と呼ぶような特別なイベントは何も起こらなかったわけだ。
……まぁ、大学の入学式で「あれ?もしかして悠翔君?」と、女神様に声をかけられたときは、どうにも信じられなくて流石の俺も自分の頬をつねってみたものだが。
おっと、気づけばかなりの時間が経っていたみたいだ。
長々と昔話をしてしまって悪かったな。
俺の人生を振り返ると、やっぱりこの高校時代が特に不思議だった。
だからこそ、印象的な記憶として残っているし、こうして定期的に思い出すことが多いんだろうな。
とはいえ、あまり過去に思いを馳せてばかりいてもよくないだろうし、今回はここまでにしておこうか。
ちょうど、俺も晩飯の時間のようだ。
……それにしても、相変わらず凄いんだよ。
まだ何も言ってないのに、今日も自分の食べたいと思ってた料理が既にテーブルに並んでるんだ。
どうやら我が家のキッチンには、当時と変わらぬ不思議さを纏った、エプロン姿の女神様がいるようだ――
隣の席の女神様 晦 雨夜 @amayo_tsugomori
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