カオルと暦美

それはきっと、とてもしょっぱい

「あっついなぁ……」


 その青年〝カオル〟は悪態をつきながら汗をぬぐう。


「ダメだ、暑いとか言ったら余計に汗が噴き出してきた。ったく、去年はまだ涼しかったはずなのに……ホントに? 去年もいやここ数年ずっと暑くて――」

「おーい、カオルや」


 茹だった頭が無限ループしそうになったカオルを、背後からの呼びかけが救った。


「あー暦美さん……?」


 振り返ると、そこには涼やかな白いワンピースを着た美少女がいた。たくあんみたいな太いまゆ毛がチャーミングだ。


「そうだよぉ、アンタのってすごい汗! ほらこっち来んしゃい!」

「は、はい」


 手首をつかまれ連行されるカオル。彼の鼻の奥を、暦美からただようお線香や畳の落ち着く匂いがなでる。


「ほれ、これとこれ口にし」

「えぇと、梅干しと水ですか」


 気づけば台所にいたカオル。彼は暦美に差し出された梅干しを一つ口にし、水をガブガブと飲み干した。


「ぷはっ! あー生き返った」

「ならよかった。でも、しばらくは安静にするんだよ。アンタ見るからにフラフラしてたんだからね」

「えっ!? 本当ですか、ぜんぜん自覚症状なかった……」

「働き者なのは感心するけどね、キチンと休まないと体を壊しちゃうから気をつけんしゃい」


 暦美の気を使ってくれると分かる視線に、カオルは素直にうなずくのであった。

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カップルたちの数百字ショート(異性/ノーマル/ヘテロ集) 尾道カケル=ジャン @OKJ_SYOSETU

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