概要
プロレス界の伝説に残る女ヒールが旦那の引退試合に血の花を添えます
「あなた、お弁当っ!」
朝、自宅玄関の上がり框で靴の紐を結び直した時、真白栄介の背後で声がした。
振返ると、廊下を彼の妻・蘭子が駆けてくる。華やかなオレンジの手提げ袋を下げ、早い足取りを進める度、ドスドスと足元の板が軋んだ。
174センチ、85キロある栄介と比べても蘭子は大柄だ。
身長は夫と同じ位、体重では6キロ上で、築30年近いボロ屋の廊下が悲鳴を上げるのも無理は無い。
「はいっ、今日も頑張ってね」
渡された手提げ袋の中には、保温式の大きなランチボックスが入っていて、ズシリと重かった。
糖尿の気がある栄介の身を案じ、栄養に配慮した文字通りの愛妻弁当だ。
九州から北海道まで地方を巡る仕事ばかりの栄介だが、家から通える「現場」の場合、蘭子は必ずこの弁当