第2話



(斬れますよ)



 遠ざかっていく徐庶じょしょの気配に、大人しく待っている馬の影で、陸議りくぎは溢れて来る涙を止めようと深く目を閉じ、息を吸い込んだ。


(自分のために、

 の為に、

 どれだけの敵でも斬って来た。

 どんな相手でも)


 自分はそういう人間なのだ。


 戦うことを恐れない、

 戦場では、自分の望みのために、

 敵を迷わず殺せる。



(でもそれは、そうすることで誰かを守れたから)



 敵を殺しても、愛する人が守れるなら。

 主君に勝利を捧げられ、

 敵を消し去れるなら。

 それならどれだけでも戦えた。


 つまり今、自分はそういうものを失った状態なのだ。


 愛するもの、

 仕えるべきもの、

 自分の居場所と思える、存在。


(見つけたい)


 徐庶が【水鏡荘すいきょうそう】を自分の居場所だと安堵出来たように。


 劉備りゅうびに会って、彼をまるで父親のようだと慕えたように。



(私も、誰かや、

 どこかを、いつか見つけたい)



【終】

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花天月地【第44話 優しい言葉】 七海ポルカ @reeeeeen13

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