森の家の、優しい女（カクコン１１用改稿版）

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（301文字）

これは、夢の中の森にすむ女の話。

ある男が眠る。
夢の中に霧雨の降る森があって、小さな家がたっている。
そこで暮らす、ひとりの女。
男が好ましいと思う顔や体をもつ女。
男が作り上げた、理想の女。

「私は、あなたのためだけに生まれてきたの」

けれど、人の心は変わる。
仕方のないことだ。
女は行動し、考えて、そして決めた。

物語は、現実世界と夢の世界が交互に語られます。
彼女のパートを読んでいるあいだ、霧雨に煙る森の湿度が静かに心を満たす感覚がありました。
とても美しい物語でした。

心の中、意識と無意識との狭間にすまう、理想の女性像。
外の世界から、現実から、あらわれた女の存在に、彼女のすまう夢の世界は、彼女自身の存在は、揺るがされ脅かされる。
それは「夢の世界」にすまう住人の逆襲なのか。それとも、現の男の心理的な葛藤なのか。
この物語は夢幻か、それとも現実だと言うべきか。

夢多きあなたにも、現を見据えるあなたにも、ぜひ読んでほしい一作です。

都内の病院の現実という冷たい日常から、すぐに夢の世界という幻想的で閉鎖的な空間へ移行する対比が見事で、物語にすぐに引き込まれます。

夢の中の女性の狂気的な愛から、彼の解放を選ぶ自己犠牲的な愛への転換が悲しくも美しく描かれています。

一途で、深すぎて、歪んでしまった愛であり、同時に自己の存在理由を愛に見出した、夢の中の女性の悲劇。

あなたも理想をころころ変えてたら、刺されちゃいますよ。

おすすめです！

霧雨の降り続く森の小屋に住む女と、病院で眠る男。
男の望みによって生まれた理想の女は、ただひたすらに彼を愛し続けます。しかし、彼が別の存在へと心を移していくとき、彼女の愛は独占へと変わり、そして最後には……。

幻想性と生々しい情念が交錯する文章は詩のように美しく、読後には寂しさが残りました。

霧深い森の奥、小さな小屋にひっそりと暮らす一人の女。
彼女は病院で眠り続ける男を、ただひたすらに愛している。

現実では触れられない彼を、夢の中では独占できる。
誰にも邪魔されず、誰にも奪われず、永遠に愛し続けられるのだ。

本作は、女の独白によって紡がれる物語。
生々しい感情と幻想的なイメージが交錯し、奇妙でありながらもどこか切ない読後感を残す一作。

彼女の想いが辿り着く先を、ぜひその目で確かめてほしい。

雨に濡れた森の匂いがそのまま胸に残る。『森の家の、優しい女』――愛の独占が生む切なさを、静かに、しかし容赦なく描く一篇。🌧️

優しい人が傷付いたり、寂しい想いをする。
痛みが胸に突き刺さるくらい、心が揺り動かされました。

大好きな人に優しくするのは正しくないことなのでしょうか？
それは、いつも決まって優しい人が損をしてしまうからです。

優しさを求められて、理想の女となっても、人は離れていくものですね。
理想とはなんでしょう。

けれども、彼女はその生き方しかできない女性なのです。

夢の儚さを見た気がしました。

霧の中の、小さな家に住む女。女は男を愛し、男も女を愛していた。

しかし逢瀬を重ねたその家に、次第に男は通わなくなる。女には孤独な時間が増えていく。

誰にも渡さない───いつも霧雨が降り、永遠に晴れることのないその家で、女の愛だけが増幅する。ついに女は短剣を手にした───


幻想的でありながら、彼女のいじらしさや悲しみが胸に迫ります。それと同時に彼女の「優しさ」の意味を知った時、なんともいえない罪悪感がありました。これは人それぞれ、身に覚えがある方が読むと抱く感想かもしれません……。

人は、一人でも「愛」という感情を作り出せるかもしれませんが、作り出されたその「愛」の行く先を考えたこと…続きを読む

タイトルのイメージに反して、いきなり出てくるのは「都内某所の小さな病院」。そこに運ばれてきた男は、たびたび森の家に住む美しい女と会っていた。

女の独白で進んでいく物語は、一見身勝手なようで実はそうでもない男と、ありえないほど愛が暴走してしまった女の姿を描いていく。

どんな二人にだって、愛は生まれうるのかもしれない。
ならば、どんな二人にだって、悲劇は起こりうるのだろう。

恐ろしくも悲しい、愛の物語。ぜひご一読を。