霧の中の、小さな家に住む女。女は男を愛し、男も女を愛していた。
しかし逢瀬を重ねたその家に、次第に男は通わなくなる。女には孤独な時間が増えていく。
誰にも渡さない───いつも霧雨が降り、永遠に晴れることのないその家で、女の愛だけが増幅する。ついに女は短剣を手にした───
幻想的でありながら、彼女のいじらしさや悲しみが胸に迫ります。それと同時に彼女の「優しさ」の意味を知った時、なんともいえない罪悪感がありました。これは人それぞれ、身に覚えがある方が読むと抱く感想かもしれません……。
人は、一人でも「愛」という感情を作り出せるかもしれませんが、作り出されたその「愛」の行く先を考えたことがあるでしょうか……? その「愛」は優しければ優しいほど、作った者にとっては都合のいい喜劇となり、作り出された者にとっては悲劇となる……。
寓話的でもあり、読後は自分の心の中にも「彼女」がいないか探すかもしれません。
いくつもの感情が呼び起こされ、それが不思議な余韻となる素敵な小説でした。
とある男によって生みだされた想像上の女。勿論彼女はこの世界のどこにもおらず、ある男の夢の中にのみ現れることができる存在。そんな彼女は、会いに来なくなった彼を不満に思い、彼を夢の中で手をかける。しかしながら、それで彼女は満足したわけではなく、想像上の恋人は、愛に基づいて何がしたいのかを考えだす。
夢の中でのみ会えるイマジナリーフレンドとの物語。想像によって作られた存在が、心を持ち、自分に何か影響を与えることは出来るのか? イマジナリーフレンドが心を持っていると思い込んでも、それは実のところ自分自身の一部に過ぎないのか? なんてことを考えることも出来る作品。
現実での男女のもつれには飽きてしまった、という方にこそ楽しんでいただきたい作品。恋人を作り出して夢の中でいちゃつこう! とお考えの方も是非。
それは男のつくった幻。
黒く長い髪と白い肌、折れそうなほど細い身体の美しい女。
男は毎日女の元にやってきて何度も何度も愛した。
そのじめじめと靄のかかった森の中の小さな家から出られない女は、男が来てくれるだけで幸せだった。だが‥‥
小田島さんには珍しいホラーテイストのラブストーリー。
しかし、文体は確かに小田島さんだ。
もし、この世が今夜いきなり破滅して遺跡化し、数年後、瓦礫の中からこのテキストデータの一部が発見されたら、私はたちどころにこれは小田島文学です!と解読できることを宣言します。
それくらい、小田島さんの恋愛モノが確立してきたって話。
読んでみて、きっと納得できるから。
これは、意外と覚えのある人も結構多いのではないか、と思わされました。
主人公である「とある女」は、一人の男を独占しようと反芻します。
しかし、彼女の存在はどこか不可思議なもの。生きている普通の人間とは違う。でも、死神だとか幽霊だとか、そういう超常なものとも何か一線を画する。
彼女は思い返す。「これはあなたが作ったもの」だと。彼女という存在は、どうも「彼」の内面で作られたものらしい。
これは一種の「イマジナリー・フレンド」とか、「妄想の彼女(エア彼女)」に近いものなのかもしれない。
「いつか、こんな彼女が出来ればいい」、「こんな相手との愛に溺れてみたい」
そんな「都合のいい欲望」の産物として一つの理想像を作る感覚。
もしも、そうやって生み出された存在に「自我」があったらどうなるか。
妄想の彼女なんて、その時その時で理想像が変わってしまうもの。アニメファンなどはしょっちゅう「嫁」を設定するものだけれど、1シーズンが終わって新番組が始まったら、また次の「嫁」を新たに見つけるものでもある。
これは妄想の中の存在としてはたまったものではないかもしれない。生み出した責任も、愛した責任も取らず、すぐに「次」に行かれたとしたら。
本作はそんな風に、「彼女」の存在がどんなものかとあれこれと想像力を刺激されました。彼女はどんな存在し、そして彼女が実在するならどんな風な葛藤をしているか。
そういう「IF」な煩悶具合がとても興味深かったです。「愛されること」がアイデンティティとなっている彼女。そんな彼女は葛藤の末、どんな決断を取るか。
想像すること、妄想することは自由。でも、それは同時に身勝手でもある。そういう「何気ないこと」を改めて見つめ直させられることにもなりました。
ある男が病院に運ばれて話が始まります
そして始まる謎の女の独白
どうやら、彼女の恋人である男が浮気したので、彼を永遠に自分のものとするために手にかけたようなのですが・・・
心中にしては病院に運ばれたのが男だけで女が運ばれてないのは妙ですし、最後に永遠に女は忘れ去られてしまったの一文が気になります
私は女は男が作り出した夢の女説を推したいのですが、もしかしたら、女は行方不明になって男だけが運び込まれたのかも
だとしたら女はどこにゆき、なぜ男からも忘れられたのかがわからないのです
純愛好きな小田島さんらしくないドロリとした女の情念と謎が感じられる小説です
ぜひご一読をお願いします