星になった彼女

りおん

星になった彼女

「私ね、星になったことがあるんだ」


 唐突にそう言われて私は、どんな顔をすればいいのか分からなかった。

 八月下旬、夏休みがもうすぐ終わるというその時期に、私と彼女は遊びに行った。行先はいつものショッピングモール。フードコートで冷たいアイスコーヒーを飲みながら一息ついているところだった。


「ほ、星になった……? あのお星さま?」

「そう、あのお星さま」

「それはそれは……って、何かの間違いなんじゃないの?」

「ううん、本当だよ。この世のすべてを上から見たよ」

「そ、そうなの? 打ち上げ花火も?」

「上から見た」

「東京スカイツリーも?」

「上から見た」

「富士山も?」

「上から見た」


 ……本当のことなのか、私にはよく分からない。

 打ち上げ花火は下から見るか横から見るかではなかったのか。東京スカイツリーも下から見上げる感じがするし、富士山のてっぺんはもっと遠くに感じるもののような気がする。

 でも、彼女がそう言い切るということは、本当のことなのかもしれないなと思った私がいた。


「でも、そのときの写真が撮れなかったのが心残りでねー、せっかくの絶景がもったいなかったなー」

「そ、そっか……」


 星になってしまって、スマホやカメラが操作できるのだろうか。手足もなくなるのではないかと思ってしまった。

 ……ん? でもよく考えると、星ってかなり遠くにあるものではなかったっけ? 夜空にはたくさん星が輝いているけれど、どれも相当遠くにあったような。そこからこの地球の、この日本の景色が見れるものなのだろうか。


「星って、めちゃくちゃ遠くにあるものじゃなかったっけ……?」

「普通の星はそうなんだろうね。でも私はこの空にいたって感じかな」

「そ、そっか、空に浮かんでいる感じか……」

「うん、キラッと輝いていたから、誰か気づいてくれた人がいるかもしれないなー」


 冷たいアイスコーヒーを飲みながら、笑顔で言う彼女だった。


「キラッと輝く星……か」

「うん、あ、ちょっとこいつ嘘ついてるって思ったでしょ?」

「い、いや、そんなことないよ。自信満々に言うから、本当のことなんだろうなって思っていて」

「ふふふ、ありがとう。今度星になったらさ、教えるから! 今見える景色とか、体感とか、私が感じたすべてのことを!」

「ありがとう、そのときを楽しみにしているね」


 小さい頃、あれは七夕のときだったかな、『お星さまになりたい』と誰かが短冊に書いて、それを言っていたような気がする。キラキラ輝くあの星になって、色々なものを見てみたいとか。

 本当に星になったのか、それとも何かの間違いなのか、彼女以外は誰にも分からない。

 でも、星になったと言う彼女は、輝いていた。

 私は小さい頃の記憶を思い出しながら、彼女を見つめていた。

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星になった彼女 りおん @rion96194

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