【カクヨムコン11・短編】焼き芋女

東條零

第1話 焼き芋女

 道草をして公園のブランコに並んで腰掛け、香奈と裕美はソシャゲに勤しんでいた。


「そういえばさ、三組の詩織ね、焼身自殺したって噂だけど……」


 裕美が声をひそめて切り出した。チュッパチャプスをくわえたままモゴモゴ喋る。


「ああ、失恋したんだっけ?」


 ストローで練乳いちごをチューっとすする香奈は、まるで他人事だ。


「実は、焼き芋女に焼き殺されたらしいよ」

「はぁ?」


 香奈は目を点にした。


「ほら、口裂女とか、貞子とか死の待ち受けとか」


 必死な裕美を尻目に、香奈は小馬鹿にしたように笑った。


「都市伝説でしょ? だいたい、焼き芋女なんて…映画のオファー絶対こないし」

「だよねぇ……」



 空が夕焼けに染まっていた。

 通りの向こうから、ぷぴーという独特の音が聞こえてくる。


『……ーーしやきぃーいも~! いもっ!!』


 二人は同時に顔を見合わせた。

 どちらからともなく、言った。


「か、帰ろっか……」



 秋の日はつるべ落とし。

 あっという間に夕焼け空に深い群青のとばりが降りる。

 裕美と別れ、香奈は家路を急いでいた。


「裕美ったら、変な話するんだから……」



 と。

 不意に、ポケットの携帯がぷぴー、と、変な着信音を鳴らしながら震えた。


『じょーしやきぃーいも~! いもっ!』


 着うたならぬ、着声だ。


 でも、そんなもの設定した覚えはない。


 おそるおそる携帯を開いてみると、たき火の前で、泣きながら焼き芋をほおばる裕美の姿が動画で届いていた。


「趣味ワル……」


 どっと脱力した香奈の背後で、何かがメラリと燃え上がる。

 髪の焦げる臭いが鼻をついた。

 振り返るまでもなかった。


 自分の背中が燃えていた。


「焼き芋、おいしいよ」


 動画の裕美が、涙声で言った。

 画面からにゅっと裕美の手が伸び出して、熱々の焼き芋が香奈の口に押し込まれる。


「早く食べないと、燃えちゃうよ?」



 自分に携帯のカメラを向けながら、香奈は死にものぐるいで焼き芋をほおばった。


 了

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