自身の存在意義を問いかける、若き闘士たちのリアルな戦記ファンタジー

“なりたい自分”と“求められる自分”のズレに苦しむ、若き闘士たちのリアルな戦記ファンタジーです。

序盤では主人公ヴィータの破天荒な突撃と「ネームレス」への憧れが描かれ、彼の未熟さと野心が印象的で、一見すると主人公の成長物語に終始するように見えます。しかし読み進めるごとに、物語の核が単なる「成長譚」に留まらないことが明確になっていきます。


あるシーンでは味方が敵へと変貌する異常事態が発生し、「誰を信じるか」「人はなぜ壊れるのか」というテーマが一気に浮上してきます。この構図が、ヴィータの未熟さや、“力だけでは届かない場所”というネームレスの存在意義とも呼応しており、物語全体が徐々に多層構造を帯びていく様は圧巻です。

また、内政改革や、暴走する兵士たちの“記憶の空白”など、伏線の張り方が非常に丁寧かつ静かで、“誰が味方で、誰が敵か”という問いが、戦場のモンスターだけでなく「自分自身」「仲間」「国家」にまで及んでいくことが予感される構成になっています。

この御作品は続編ということで、私はまだ前作を拝読していないのですが、それでもこの作り込まれた世界観を無理なく体感することができる丁寧な描写も、魅力の一つだと思います。

読み応えのある群像戦記が好きな方、ぜひご一読ください。

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