カラヴァッジョの下絵、ローマで発見

九月ソナタ

カラヴァッジョの下絵か?

 ダ・ヴィンチやラファエロをはじめ、数多くの巨匠たちは素描や下絵を残してきた。しかし、カラヴァッジョには一枚の下絵も現存していない。彼がそもそも描かなかったのか、それとも意図的に残さなかったのか。その謎は長らく美術史の闇に包まれていた。

 

 2024年6月、ローマ旧市街にあるカストラーニ家の邸宅地下で、雨漏り修復作業中に偶然発見された封鎖された小部屋。その内部から、カラヴァッジョ風の人物習作や構図メモなど、計11点の紙片が見つかった。日付は1605年と記されており、保存状態は比較的良好だという。

 

 最初に現場に入った国立美術研究所の学芸員、ルイジ・スカルパ氏はこう語る。

「これまで、カラヴァッジョが下絵を描いたという証拠は一切存在しませんでした。彼の絵がどのように生み出されたのか。それは画家や専門家たちにとっても、永遠の謎でした。今回の発見は、その扉を開く鍵になるかもしれません」


 ところで、おもしろいは、その中の紙片の一枚に、逆さ文字でこう記されていたことである。

「Un traditore vive tra le luci(裏切り者は光の中に生きている)」


 逆さ文字といえばダ・ヴィンチが用いた手法として知られるが、この言葉の意味は依然として不明である。カラヴァッジョの作品に通底する「光と闇」の主題との関連を指摘する声もある。

 

 作品の真贋については、AI画像解析、筆致照合、顔料分光分析など複数の手法による検証が行われ、「カラヴァッジョ本人による可能性が極めて高い」とする暫定的な判断が下された。


 しかし、美術史家の間では依然として議論が続いている。

「なぜ、これほど貴重な資料が、長年誰にも知られず、この屋敷の地下に眠っていたのか?」

 ローマ大学の美術史家、クラウディア・ジェンティーレ教授はそう問いかける。


 この11枚の下絵は、2030年の秋、カラヴァッジョ没後420年を記念して、ヴァチカン美術館にて特別展「カラヴァッジョ 地下室からの遺言」として一般公開される予定だという。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カラヴァッジョの下絵、ローマで発見 九月ソナタ @sepstar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説