星をたべる子

sui

星をたべる子

夜になると、空から星が消えていく町があった。


誰も理由を知らなかった。ただ毎晩ひとつずつ、星がふっと消える。


町の人々はそれを恐れ、空を見上げることさえやめてしまった。


けれど町の外れに、ひとりの少年が住んでいた。彼だけは毎晩、星が消えるたびに、静かに笑っていた。


少年には秘密があった。


彼は「星をたべる子」だった。


ひとつずつ星を食べるたびに、世界から悲しみをひとつ消していたのだ。誰にも見えない場所で、誰にも気づかれずに。


けれどそのたびに、彼の身体は透けていった。


星が十個目に達した晩、少年は自分がほとんど影だけになったことに気づいた。そして夜空を見上げた。


そこには、ひとつだけ大きな星が残っていた。


少年は食べるのをやめた。


その星は、まだ誰かが願っていた。


彼はその願いを抱えたまま、静かに消えた。


翌朝、町には小さな光が差していた。


空に戻ったわけではない。けれど、誰もがふと顔を上げたくなるような、やさしいまばゆさだった。


その後、星はもう消えなくなった。

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星をたべる子 sui @uni003

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