15 わたしは偽ことリテ?
真っ暗な空間。
そこへ、何か聞こえてきた。
「ねーちょっとココネ聞いてよーあのね……」
女の子の透き通るような声。
早苗ちゃんだ。分かったとき、その声は消えていた。
「ごめんね。これしか方法は―――」
これは……ママの声? どうして泣いてるの。ねぇ、マm―――
「悪いけど―――にはわたしたちと共に―――」
「なら―――それでいいね?」
え? なに、誰の声? 次々と耳に響いてくる。
でも全部途切れ途切れ。理解できるのはひとつもない。
「ねぇ、ココネ。これからさ―――一緒に―――」
「サナエ―――ダメ―――だいじょうぶ、ジャ―――」
「今日から、そのイン―――君と早苗の思い通り―――」
やめて、やめて……やめて!
どんどん重なっていく。誰が何を喋っているのか分からない。
ようやく声が消えていって、シーンってなった時。
「ほーら、僕の言うこと聞かないから、こんなことになっちゃったんだ」
唯一はっきり聞こえた青年の声に、わたしは最大の恐怖を感じた。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「やめてっ!!! って、いったーい」
飛び起きる自分の動きで、さっきのが夢だったと一瞬で悟ったと同時、背中に衝撃が走った。
わたしは見たことない部屋のベッドで、汗だくになりながら眠っていた。
頭の中から変な気持ち悪さを感じて、苦しい。
それで思ったの。さっき、夢で出てきたいろんな声って……
「事故より前の、わたしの記憶?」
「ホォーホッホッ」
右に鳩さんがかなり近くに止まっていてびっくりした。
まるでわたしの疑問に「そうだよ」って言ってるような鳴き声だった。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「あっ、起きたー!」
しばらくベッドに座っていると、部屋に二人の子どもが入ってきた。3歳ほど離れたきょうだい、かな?
……あっ! 二人の顔を見て思い出したの。
わたし、たしか後藤さんを救おうとして……ルッテが消えたことに動揺した際に、やられて気を失っちゃったみたい。
じゃあ今の状況はもしかして。
「わたしを助けてくれt」
「ちがうよ。あたしたち、あなたを
「それ、いうなら
即答した女の子に、男の子が素早く訂正する。
「拘束? どういうこと?」
「事情聴取がしたい、鈴野ここね……偽ことリテ」
名前、なんで知ってるんだろう。男の子は強くわたしを睨んでいる。
女の子はそんな彼に飛びつき、説明を付け加えた。
「簡単に言うとね、ことリテじゃないあなたが怪しいチカラ使ってたからいろいろと聞きたいってわけ」
偽? 怪しいチカラ? さらにわけが分からない。
きょとんとしてるわたしに、男の子はため息をついた。
「とりあえず、
男の子は呆れた様子で隣の部屋に入っていった。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
残された女の子と目が合うと、彼女は幼い笑顔を見せる。
「ねぇ、偽ことリテってどういう……」
「はいこれ、あたしの名前! もちろん読めるよね」
わたしの質問を無視して、何かを差し出してきた。
「星 莉 菜」
そう書かれた名刺だった。……えっと、この名前なら、
「『せりな』ちゃん……? いたっ!」
答えた瞬間、首に痛みが走る。
右にいた鳩さんがくちばしで攻撃してきたんだ! そして不満そうにほっぺを膨らませた、女の子の肩へ乗っかった。
「もぉ~また間違われた!
あ、
うーん、この名刺だったら字の開ける場所が悪いような。
「結局何者なの? きみとおにいちゃんは」
「何者って、ことリテだよ。今日ね、初めて人を救えたんだ」
ことリテ?
って、人を救ったって……あの後、二人でゼンマー倒したってこと!?
と、莉菜ちゃんはUSBメモリを部屋のテレビに接続した。
「よしっ! じゃあ擬態ドローンで撮ってた、今日のあたしたちの活躍でも見てて! 背中、治してあげるから」
「……火傷の手当、してくれるのはありがと。なんて呼べば」
「りーちゃんって呼んで! にいさま、頼んでもそう呼んでくれないんだぁ」
わたし、一応捕まってる状況だったけど……
火傷を治療してもらいながら録画や、りーちゃんの言葉とかで、いろんなことを知ったんだ。その中で、特に驚いたのは三つ。
わたしが倒れた後、真波灯希くんっていう子が星莉菜……りーちゃんと一緒に、病院の火事を沈めたこと。
真波くんは11歳。りーちゃんは10歳(にしては小さい!)であること。
そして何より、二人とも「ことリテ」として、「トYゴン」というスマホと鳩の指揮で後藤さんをマイ魂から解放したこと。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「なぜお前、ことリテのようなチカラを持っている?」
火傷の治療と二人の初陣録画視聴を終えて数分後、わたしは真波くんの部屋に連れていかれて。
言ってた通り事情聴取みたいのがはじまった。
答えれないことばっかりだし、何より天才が住んでいるような部屋で、かなり緊張しているんだ……正直に、言うしか道はない。
「えっと……わたし、本当にことリテ、らしぃ」
「なら『ことリテの人間は一人しか存在できない』という摂理も知ってるはずだ。オレ以外のことリテの存在は、普通ありえない」
ことリテは一人だけ。
たしかにルッテが最初、そんなこと言ってた……ような。
あれ? でもだとしたら……
「りーちゃんも、自分はことリテって言ってたけど?」
「あぁ、
少し間をおいて、真波くんは口を開いた。
「人間じゃないからな」
「……はい?」
すると隣の部屋からりーちゃんが顔をのぞかせた。(わたしが眠っていたの、りーちゃんの部屋だったみたい)
そして笑顔で、今日一番の衝撃の事実を言ったんだ。
「えへへ。あたしね、にいさまのパパが開発した、ことリテ能力搭載の最新AIなの!」
うん、えーあい? ……AI? りーちゃんが、人間じゃなくて? AI!?
「えええぇぇ!!!???」
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「この子、AI!? ウソだよね……」
「ほんとだよ。現にこうすれば」
―――パチンッ!
真波くんが指パッチンをした瞬間、りーちゃんは洗脳されたように部屋に戻る。
追いかけてみると、一瞬でベッドに横たわって……
『ホシリナ充電中 バッテリー48%』
ベッドにそのような青色の文字が浮かび上がったんだ……!
「……全く気がつかなかった」
あ、でもよく考えたら、読み方がおかしな部分があったかも。
「
後から知った事だけど、ことリテのチカラはまだないから、口笛で鳩を操れるように、真波くんが一生懸命ラーニングさせたんだって。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「話を戻すぞ。ことリテのチカラ、なぜ使えるんだ?」
もう一度、真波くんは、睨みつけてきた。
でも、分からないのはホントだもん。しばらく黙ってると、
「正体だけでも吐け!……さもなければ」
ポケットから出してきた物で、ブルッと震えた。
サイトのチカラが使えるっていう「トYゴン」と……れっまる!? やっぱり、奪ったんだ。
ソレらで攻撃してくる。そう感じて、喋ることにした。
「だから、何も知らないんだってば……」
「あぁ、記憶喪失なんだろ? そしたらなぜ危険なチカラを使っている?」
「それは男の子に頼まれて。ことリテが一人しかいないからって……!」
「じゃあソイツは誰だ! 答えろっ!」
彼が胸ぐらを掴んできて、震えは増加する。
どうしたらいいの? なんて答えたら許されるの?
目を瞑った、その瞬間だった。
「別にいいんじゃない? ここねがことリテだったところで」
……え。
後ろから聞き慣れた声がして、思わず振り返る。
水色髪に、丈の長いレモン色のTシャツ。
もう、分かったよね。
「ルッテ……!」
わたしの安心感とは反対で、真波くんは不満そうに尋ねる。
「お前、ここまで鳩の見張りがあったのに、なんで入ってこれた?」
「潜入捜査とか、得意てね。君の味方面しとけば、攻撃してくることはない……そんなことより、ここねが偽じゃない証拠ならある」
真波くんはわたしを突き放すと、今度はルッテを睨みつける。
とりあえず、その証拠が聞きたいみたい。
「7ヶ月前の事故で、記憶どころか日本語さえ忘れたここねは、たったの数ヶ月で小学5年までの知識と思考力を取り戻した。こんなこと、ことリテでなきゃできないでしょ?」
うん? 確かにそうだったけど、なんでそこまでルッテ知ってるんだろ?
あと、記憶喪失の後、覚えるスピードは尋常じゃなかったってよく言われたけど。あれってことリテだったからなの?
「しかしなんでそこまで自分以外のことリテを敵対視する? 今日も昨日もここねは人を守るために動いたのに」
「……ことリテはやるべき人以外、やる必要はない」
ルッテの正論に、真波くんは少し遅れて答える。
「記憶喪失なのにことリテの役目は、銃を知らない人が普段から所持しているようなもの。遊びじゃないんだ」
ことリテが遊び? わたしだって本気だよ!
そう言い返そうとした、次の瞬間だった。
ルッテが急に真波くんに突進したんだ!
「うあっ!!」
真波くんの手かられっまるが飛んでくる。
ルッテはそれをキャッチしてわたしに差し出した。
「こいつ、話にならない。ここね、ここは逃げるが勝ち。地図アプリ使って!」
「分かった……けどルッテ、なんで病院のとき消えてたのかだけ教えてよ」
こんな時に聞くのもなんだけど……
ルッテに再会したら、すぐに聞きたいことだったから。
「ねぇ! それだけでいいから言ってよ! わたし、死にかけたんだよ」
「……あとでちゃんと説明する。せっかくソレ取り返したんだから逃げるよ!」
あぁ、もう! ルッテって、本当に不思議。
「……約束だよっ! りんリテラシー、れっまる、アプリテラシー、『地図』!」
わたしはルッテの手を繋いで、自宅にピンを指して……
瞬間移動で、その場所から脱出した。
* * *
ここねが逃げた夕方。48%から100%になった少女が静かに灯希の部屋に入ってきた。
「……逃げられちゃった、の?」
「あぁ、ごめん。邪魔者が入ってきてな」
「いいよ、あたしが
アイツはオレと同じ小学校だった。早ければ明後日にも、赤スマホを取り上げる機会はあるはず、と灯希が思っていると、
「それよりにいさま、一個知りたいことがあるんだー」
少女――
「今日のゼンマー、SNSアプリと炎上でマイ魂を発動したのは分かったんだけどね、なにで炎上したの?」
「……あぁ、動画の無断転載だったみたい」
「へぇー、どんな内容の?」
灯希はパソコンを操作し、無断転載の動画が最初に掲載されたリンクを入力する。
見出しをスラッと読み終えると、星莉菜の方へパソコンを回転させた。
「……これだって」
『小学6年生が車にはねられ意識不明 容疑者はながら運転か』
見出しにそう書かれたニュース動画の投稿日時は7ヶ月前だった。
* * *
「やっほー
「頭呼びはやめてって、言ってるはずだ」
その日の真夜中。丘の上にある「城花広場」。
20代を操っているゼンマーこと、No.913は和風な服装の青年に駆け寄った。
青年はすぐNo.913の変化に気づき、呟く。
「操る人、変えたんだね」
「ケイムショ? みたいなとこ入ってさー。スマホの持ち主変わったからマイ魂もこの人間に発動したった」
左の瞳が緑の彼女は逆手ピースをしながら笑って答える。
ただ青年は一切顔色を変えず、まちを見下ろした。
「どしたの、マジ元気なさすぎー」
「知ってるだろう、昨日にNo.1710、今日にNo.510が消滅したこと。ことリテのせいで」
重い表情で言葉を出す青年に対し、No.913はそれでも楽観的な態度でいた。
「うーん、一体二体いなくなっても別にどうでもよくね? うちらスマホ一台に一体よ。あいつらにとっちゃキリないって」
「……まぁね。ただ、
「ほーん。たしかに
よし、なら仕方ないか!
と、彼女は決意を固めると、青年に向けこう誓ったのだった。
「じゃあ、うちに任せとき! 今から手下集めて、そいつら倒してやるし」
「行動だけはいつも早いね、No.913……いや、スモンビーのリーダー」
「あったり前。やったるしーーー!!!」
今度は両手で逆手ピース――ギャルピをして、その場から風のように消えていった。
「じゃあ僕の行動は……」
青年――ゼンマーの
「会いに行かないとね、ココネに」
ことリテ、らしぃ!? 海先こより @syu0809
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