破綻者

@4050926

破綻者

 わたくしには、恋というものがわかりません。

性欲が無いのではございません。私も、女性を目にすればそれなりの感情を抱きます。

私にも、女性のお友達はいらっしゃいました。その中で、「一緒にいて楽しい」「別れるのが寂しい」と思うような方もいらっしゃったと記憶しております。しかしその感情は同性の方にも抱く感情と同じものでございまして、そしてその感情それ自体も、甘い香りで私の鼻腔を飽和し、私をベッドの上でのたうち回らせるほどの、病ともいえる状態にまで至らしめるには値しなかったのでございます。

幼い頃からそんな風だったもので、私はついにそれを十数年引きずり、果ては恋愛それ自体を「無意味なもの」と見做すまでに至ったのです。

とある1人の人間のことだけで自分の脳内を一杯にし、自らの一喜一憂はその人によって左右される。実に、哀れなことだと思いませんか。ええ、思わないでしょう。

私がこんなにも、捻くれてしまっているのは、ひとえに私が人の情というものを、理解できないからでございましょう。

 私には、人の情というものがわかりません。

感情が無いのではございません。親切な方からお褒めの言葉をいただけば、それなりに嬉しく感じますし、手厳しい方から非難の言葉をいただけば、それなりに悲しく感じます。

私は俗に言う、「空気が読めない」や「デリカシーが無い」と形容される人間でございます。新しい本を買って来た友人の前で、何の悪意も無く、その本の批判を語ってしまいますし、スポーツの大会の決勝で敗北し、ひどく落ち込んでいる友人の前で、完全な激励の気持ちで「準優勝おめでとう」などと口走ってしまいます。故に私は多数の人から嫌われ、多くの敵を作ってきたと、そう自負しております。

かく言う私も、こんな自分が嫌いでなりません。ふと、こんな気狂きちがいを責め立てる言葉で脳内を埋め尽くしては、それこそ私をベッドの上でのたうち回らせるにまで至らしめるのです。現に今も、自己嫌悪と希死観念の呵責に耐えかねて溢れ出た反吐に塗れた手で、これを綴っております。

きっと、こんなどうしようもない気狂いを自覚しておきながら、改善しようと努めもせず、果ては嬉々としてこれを一種の誇りと見做し、あまつさえそれを文学に昇華しようとなどと試みているその精神性が、私が私という男を“破綻者”と呼ぶに至らしめた原因なのでしょう。

さて、このままの調子で自身の思想を垂れ流しているだけでは、ただただ退屈な文章になってしまう。私もそのことは理解しております。

故、これよりこの破綻者を主人公とした“小説”を綴らせていただきます。どうか、笑い話としてお楽しみください。

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