悪魔が来りて詐欺をする(デビル創造の十三個のパズルピース)
オダ 暁
悪魔が来りて詐欺をする(デビル創造の十三個のパズルピース)
【プロローグ】
俺のSNSアカウント名はルシファー。
そう世間から呼ばれている。
もちろん戸籍の正式名はあるが、とうに使われていないしキッパリ忘れることに決めた。
過去に長年数々の偽名を電話で名乗ってきた.
これも多すぎて覚えていない。
だから俺は通称ルシファー。
神の反逆者、堕天使ルシファー。
天界から堕とされた底辺の身の上だが、過去の所業は叩けば埃だらけだったから
適材適所だと甘んじているよ。ゴミクズ人間は泥水をすすって生きるのが似合いさ。
でもね
なぜ自分が詐欺師になっちまったかが、よく分からないのさ。
[一個目のピースは堕天使の子供時代〕
俺の幼少時代を語ろうか。
ひとことで言って悲惨だったよ。
環境が人を創るって本当だと思う。
俺の両親はいわゆる毒親・・猛毒親でさ。
愛情なんて俺に一滴も注いでくれなかった。
ひとりっこなのにさ、父からも母からも邪魔者扱いされて新聞配達なんかのアルバイト代も搾取されてた。二人ともたまにしか仕事しないでギャンブルばかりでさ、ちなみに父は競馬競艇、母はパチンコ狂で借金取りの督促状で郵便受けがいつも溢れていた。
口癖は「おまえを作る気なんかなかった」だよ。
やってられねえ、こっちも生まれてきたくなかったよ。
奴らはいつも金のことで喧嘩をしていた。
小中の学生時代も家庭環境が悪かったせいか、先生や父兄からの評判も悪かった。
給食費滞納で有名で恥ずかしい思いをしていたから肩身が狭く、そのせいでイジメにも合っていた。最終的には不良仲間とつるむしか自分の居場所はなく虐められっ子から、いつのまにか虐めっこに逆転してしまうまで自分が変化していったのだ。喜怒哀楽の感情もすり減り罪の意識もなく。あれは生きるすべ?もしくは代償行為だったのでは?と今も思う。
[二個目のピースは毒親と絶縁、そして家出する〕
中学卒業して即、わずかな荷物をボストンに詰めて家出をしたのさ。
チラシに書き殴った置手紙には「毒親へ 縁を切ってください永遠にさよなら」。
心底せいせいしたよ。
あれから向こうからも一切連絡もないしさ。
で僅かな金持って北海道の豪雪で有名な片田舎から電車で一路大都会札幌に行ったのさ。さいしょは夢が溢れていたね。
ロッカーの矢沢の永ちゃんみたいに絶対のし上がってやろうと。
[三個目のピースはキャバレーに就職〕
上京して見つけたのがキャバレーかパチンコ屋の住み込み。毒親がギャンブル狂だったからキャバレーに勤めることにした。職種はボーイでさ、はじめはトイレ掃除からはじまり店の呼び込みとか皿洗い。一人の部屋が確保されて自分だけの金も入って、もう搾取されることもないのだから何でもなかったさ。
少しづつ貯金もできたし。
店の女の子との恋愛はご法度だったけど仕事上の軽い相談くらいは見過ごしてくれた。
そこで出会ったのがY美だったけど毒親の次に俺に軽く搾取してきた女だった。
Y美は俺より少し年上の十八歳、美人というよりキュートなタイプの女の子。
恋愛に免疫のない俺はたちどころに夢中になった。だから同じ店で働けるのが、とても楽しかったよ。
実際、Y美を指名する客は多かった。変な酔客から彼女をガードするのが俺の仕事のひとつだったから、絡んでくる輩からは徹底的に守るよう努めた。
それでね
休みの日を併せてもらって映画や遊園地、あるいはお弁当持参でピクニックに出かけたりしてね夢のように楽しくてさ
ほら俺、放置子だったから遊びに連れていってもらう経験なんて殆どなくてさ、誕生日のお祝いやお年玉はむろん「ハッピーバースデー」「あけましておめでとう」という会話すらない環境だった。だからY美が俺の誕生日にプレゼントをくれたときは涙が出るくらい嬉しかったねえ。彼女へのプレゼントもいっぱいしたねえ、なにしろオネダリ上手だったんだよ。ブランド品が好きでさあ、おしゃれなイタ飯やフランス料理店にも行きたがってね。でも付き合った経験がないから女の子ってそういうモノなのかなって思ったりした。貯金はできなくても良かった、本当に楽しかったから。
彼女の誕生日は半年先だから何を選ぼうかな、と空想したり、中高校生みたいなデートしたりプラトニックだったけど心は十分充たされていた。プラトニックラブの経験なんてないし、だいいちお店が恋愛御法度だから、あれ以上踏み出す勇気がなかった。
でもY美は不満だったみたいで、さりげなく俺の体にボディタッチをしてモーションをかけてくる。俺の体?中肉中背のフツメンだよ。若い男だから性欲はもちろんあったが、それより安定した住まいと収入を失いたくなかった。
しばらくしてY美には別の男ができたみたい。なぜ分かるかって?それはね、デートの誘いを断られるようになったからさ。俺はあまり高額なブランド品は、もう買ってあげられないよ、と言ったのが気に入らなかったのかな・・でも貯金は少しだけでも残しときたかったんだ。金欠の苦しさは幼い時から嫌というほど知ってたからね。
でも彼女は色と欲の両方を求めていた。
他に男が出来たんだ・・と少し寂しかったけど傍観していた。人に何かに期待をする習慣が無かったから執着することも無かった。信じられるのは明確な数字で増えていく通帳、つまりMoneyだけだった。人間の心なんて流動的なものは、はなから信用していない。
俺は毒親から、うんざりするほど学んだんだ・・・
[四個目のピースはJ子の出現〕
Y美と疎遠になってからの生活は味気ないものになった。キャバレーのボーイ業を真面目に精出して生活費を稼いで、アパートに帰って寝るだけの日々。貯金だけが目標だったよ。
お客様に投資家と名乗る年齢不詳の女性J子が来店するようになった。
若作りはしてるが、醸し出す雰囲気や会話の内容が妙に年季を感じさせる。おまけにバイセクシャルを公言して老若男女問わずパートナー募集中だとのたまう。
身に着けているものは衣類からカバンや財布など全てブランドで固めていて、どこのマダムかと思ったよ。×二で現在は独身らしいからマドモアゼルかな・・
その女の儲け話に先輩のボーイが乗っかって、本当に儲けたから話はデカくなっていった。わたしも僕もと参加する輪は広がっていき、少額だけど皆利益を出していった。俺だけは半信半疑で最後まで蚊帳の外だったのに、ついに足を踏み入れてしまっていた。
「今はアメリカの大統領選挙と日本の総理大臣の選挙が重なって数十年に一回の利益が見込める絶好のとき。いまを外したらもったいない」
J子の流ちょうな言葉に酒も入り、皆酔いしれてしまった。
だから、皆こぞって儲け話に参加してしまったのだ。
ろくに貯金がないものは借金してまで金を工面し、俺のように小金があるものは殆どすべてを投げ出してしまった。儲かった実績があるから信用してしまったのだ。かりに儲けが少なくても、大金を手にする千載一遇だと皆一丸になって賭けた。
今思い出しても当時の浮かれようは異常で、キャバレーの箱が熱病患者であふれていた。
一見の客やめったに来店しないお客様を除いて、太い常連客まで参加を希望して大金を出資してしまった。
そして出資金をごそっと集めたJ子は、いきなり消えてしまった。
[五個目のピースは詐欺師と判明したJ子]
「凄く上向きだから来週いい報告出来そうよ」と笑顔を振りまきながら店を出て行ったのが彼女を見た最後だ。あれから彼女のケータイは通じなくなり、大騒動になった。キャバレーのオーナーは桁違いの出資金だったらしく、警察に届けても「この手の詐欺を解決するのは厄介なのが実情です。なんせ向こうはシッポを出さないよう実に巧妙で」の返答。
しまいには家賃どころか従業員の給料も払えなくなり、オーナーはノイローゼになって入院してしまった。当然キャバレーもつぶれてしまい、住み込みでアパートにいた人も全員残らず追い出された。戻れる実家がある人はいいよ、俺は少ない所持金でネットカフェ生活、日雇いの仕事をスマホで探す毎日だった。住み込みで他に働ける職場もあったが、少しでも日銭をためて自分のアパートを借りたかった。保証人とかの問題はあったが、それはあとで考える事。とにかく昼夜問わず働きに働いた。
[六個目のピースはネットカフェ難民時代〕
でもね、ちゃんとした住所がなかったからろくな仕事にありつけなかったんだ。履歴書の住まいにネットカフェじゃね。日払いの肉体労働や飲食店の皿洗い、解体作業とか何でもしたよ。でも腰を痛めちゃってさ、ぎっくり腰だよ。保険金は払っていたけど、治療費に貯金が食われてさ、そのうち保険金の支払いもキツくなって貯金はほぼ消えた。
腰痛はましになってきたけど、ネットカフェ費用払ったら一杯一杯のありさまで。ぎっくり腰の再発が怖いからパチ屋の住み込みも無理。長時間の皿洗いも想像以上にきつくてさ・・近所の公園でアキカン拾いだったら自分のペースで遣れるから一日24キロのノルマをこなすようになった。ひと缶1円や0,5円の世界だぜ。涙が出そうに何度もなったさ。空き缶拾いの胴締めってのがいてさ、集めた缶を持ってくの、それで金くれるわけだが通行人の目がさいしょは気になった。慣れは恐ろしいもので、それも平気になり、毎日のルーティンになった。
[七個目のピースはアキカン収入の盗難〕
だが、またもや事件が起きる。胴元に集めたアキカン拾いで得た収入を持ち逃げされたのだ。被害者は俺だけではない。自分と同じくネットカフェやカプセルホテルに滞在してたり公園で寝泊りしている者も合わせれば結構な数。胴元は行方知れずだよ。
生活保護の申請しに市役所にいってみたんだが、親近者に支援できる人がいないか問い合わせがいくらしい。親戚はもちろん毒親に問い合わせされるのは死ぬほど嫌だったから申請するのは見合わせた。一旗揚げるどころか若い身空で生活保護・・とても、そんな境遇を知られるのは死んでも嫌でネットカフェを出て橋の下に住まいを変えた。
[八個目のピースはホームレス時代]
段ボールを重ねたベッドだったけど支払いに追われる苦痛からは解放。スマホ一本あれば日払いの仕事も何とか見つかった。清掃業は楽勝とたかをくくっていたが、それが意外にも落とされる。銭湯に行って服装を整えて身ぎれいにしたつもりでもだ。何処か崩れた匂いが身体から漂ってくるのだろう、面接官は敏感だから清潔とは真逆な人間の付け焼刃的な装いに潜む汚れを嗅ぎ取ってしまうのだろう。
洗面やトイレは近くのコンビニやスーパー、図書館や公民館を利用していた。急ぎの時は公園に設置している場所ですませたが。
そうこうしてる時にスカウトされたのさ。
俺が定住生活者じゃないと狙いをつけた派手なシャツ着たチンピラ風の男に声をかけられた。
「いい儲け話があるんだけど乗ってみないか?」
〔九個目のピースは闇バイトの請負人からの誘い]
ま、結果的に胡散臭い話だとわかりながら受けてしまったのさ。
生活費のため、生きていくためと言い訳して。
ヤバいことしてる自覚はあったけど抗えなかった。
たとえばプリペイドカードを売ったり、指定されたロッカーや住居前に行って荷物を持ち帰るみたいな事。
大元は自分の手を汚したくないんだろうね、捕まるリスクも高いし。
というか俺はつかまっちまったのさ。
警察から逃げようとして警官に暴力を奮ってしまったし、ヤクの売人の片棒を担いだという不名誉きわまる罪名で。
[十個目のピースは刑務所時代]
そういうわけで執行猶予はつかず実刑をくらい数年ブタ箱行きさ、前科がついちまった。
刑務所時代も様々なイジメにあって悲惨だった。
食べ物に虫を入れられたり、夜布団に男が入ってきたりされてさ、ゲイと噂されてる奴でさ局部を触ってくるの。刑務所なんて二度と入りたくないよ。
それから数年で出所した。でも、その後の暮らしも依然大変だった。
[十一個目のピースはシャバの倉庫住まい]
NPOの支援者が一時的にシェルターに住めるよう世話してくれたけど、しょせん一過性。
改装した倉庫みたいな住まいを紹介してくれて、ひと月2000円。
すきま風はあるけど屋根がある場所だから有難かった。橋の下の段ボール生活は天候が悪い時は悲惨でさ。
共有のガス台や洗面所もあるし以前よりずっと快適になった。
仕事は皿洗いが多かったけどさ、冬場は除雪や融雪の砂蒔きや屋根の雪下ろしなんかもしたさ。札幌も冬場の雪は凄くてさ、自分の故郷、岩見沢よりは幾分マシだったけど。
それで数年はなんとか糊口をしのげる暮らしをしていた。
[十二個目のピースはついに詐欺師アジトへ!!]
それが、いきなり倉庫を改築して商売を始めるから退去してくれとのオーナーからの御達しで、行き場のない十名ほどいた倉庫住人はパニック状態に陥ったのさ。
それで勧誘されたのがテレフォンアポイントの仕事のお誘い。投資関係の会社で出資者を募っていて、その導入担当役になってほしいと言う。もちろん最低限の予備知識は必要で、その分野に精通している人間からレクチャーを受けた。
倉庫を追い出され、渡りに船のようにい古いマンションの一室で数人と生活する暮らしが始まった。
どうやら電話何台かからランダムに騙しの会話をするのが任務らしい。そのかわり衣食住の生活費は向こうもち。毎日言われるまま、渡された電話番号のリストに電話をかけて決まったセリフを言わされる生活が始まった。
成果報酬だったから当然頑張ったさ。駒にされているのは分っていたが、どんな暮らしであろうと、いちおう屋根がある所で布団にくるまって寝られるのだ。噓八百並べても罪悪感も良心の呵責も一切合切なにも感じなくなっていった。かすかに俺に残っていた善人だった頃のキレイな気持ちが、完全にすり減ってしまったのだと思う。
[十三個目のピースは 悪魔誕生]
だから悪魔になっちまったのさ。
何にも期待してないけど死ぬのもダルいから流されるまま生きている。
ただ息してホラ話し続けるだけ。
延々と。
人間らしい心なんて海の底に捨てちまった。
分かっただろ?
これからも自分の居場所はこのマンションの陽のささない一室しかない。
ゴキブリみたいに闇で暮らすしかない。
悪魔も疲れちまったからさ、パクられるまで一生ここで暮らすさ。
俺の生き方はこれでいいんだよ。
(終わり)
悪魔が来りて詐欺をする(デビル創造の十三個のパズルピース) オダ 暁 @odaakatuki
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