スイートポテトはちょっぴり苦かった
須藤 彩香
直線競馬を見に行こう
川中島ケイさんがまた恒例の「読み合いバトルロワイヤル」を開催するそうだ。今回は、新作書き下ろし1000文字以内という条件。なんでも新潟競馬場では直線コース1000mの競馬が行われているらしい。
そういえば今夏、旧友と旅行に行く約束があったな。直線コースの競馬とはおもしろそう。新潟で競馬を見て、夜は一献傾けるのがいいかも。
「直線競馬が見たい!」と旧友を誘うと二つ返事で乗ってきた。しかも、プランニングはまかせてと、かなり前向き。一抹の不安を抱えつつ、手配をお願いした。日程は8月第1週の土曜から2泊3日。
そして当日。待ち合わせは11時に東京駅八重洲南口改札前。新潟に向かう新幹線車中でランチにしようと、大丸で2人分の弁当を準備した。が、急にスマホに着信があった。電話に出ると、あわてた旧友の早口な説明が聞こえてくる。
「ゴメン、急用ができて行けない。手配したチケットをメールで送るから1人で行って」
やっぱり。2人分の弁当を買おうとしたとき、一瞬、いやな予感がした。もしかして、旧友は来ないのではないか、と。悪い予感ほど的中するものであるが、そうもいっていられない。わたしが旧友との約束をキャンセルしたこともあるのだから。困ったときはお互いさまである。
ところが、送られてきたメールを見て、わたしは大いに困惑した。新潟行の新幹線のチケットのはずが、成田から新千歳の航空券と南千歳から帯広への特急列車のチケットの控えが送られてきたので。そして、メールには「ばんえい競馬、楽しんできてね」と添え書きがしてあった。
しまった!と気づいたときにはもう遅い。「直線競馬が見たい!」というわたしのリクエスト、旧友はばんえい競馬と受け取ったようだ。さすが北海道出身だが、新潟競馬場とはっきり伝えなかったのはわたしのミスだった。
これは仕方あるまい。わたしはおとなしくバスで移動した成田から新千歳に飛び、そこから先、帯広までは列車で移動した。
ところで、送られてきたメールにはまだ続きがある。
「時間があったら柳月のスイーツを買ってきてくれるとうれしいです。それから、帯広のクランベリーのスイートポテトは彩香の好みかも。LCCで旅費を節約したぶん、おいしいものを食べてきてね」
とことん親切な旧友のアドバイスにしたがい、帰りの列車でクランベリーのスイートポテトを食べた。ちょっぴり苦い味がした。
(完)
スイートポテトはちょっぴり苦かった 須藤 彩香 @saika_sudo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます