第三節 闇を切り裂く
武器が周りに四散している。
200mmライフル砲にメタルソードにシールド、大型バズーカ。
ミサイルポッドさえも地面に落とし、ほぼ無装備の状態のシモラ。この前とは違い、背中にはジェットパックを背負っており、また右腕には大型の砲口が生えていない。
「こいつは一体…」
『まずわかることは相手は完全に降参しているということですな。メインカメラが緑色というのはシステム的に安全ということで、全く危険性が無いということですな…』
「つまり…相手は俺に攻撃する意思が無いわけか…」
確かに、シモラ一機だけで来たとしたら流石に戦車でも勝てる可能性が高い。
それにこの無装備。このシモラは戦う以外に何か目的があるのか…
『って!!あ、あれ!!!』
するとそのシモラは手をコックピットの部分へとやると、搭乗口を開き中からヘルメットを被った人間が出てきた。
「ま、マジか…!!」
その人はヘルメットの顎部分にあるボタンを押すような仕草をするとヘルメットを掴んで抜き取る。
ヘルメットを外すとそこには黒髪の眉の太い顔の濃い男の顔があった。
男はヘルメットを地面へと投げ捨てると、大きく息を吸ってから叫んだ。
「私は!!!!!シモラ軍を打倒すべくシモラ県から参りました!!!!!!!レジスタンスのドナです!!!!!!私はあなた型に協力させてもらいたく、ここに馳せ参じました!!!!!!」
「きょ…協力?協力って…どういうことだ…?」
続けて男はまた叫ぶ。
「私は!!!!!遅くながらも自分達のしていることの過ちに気付きました!!!!!!!自分達の為に人々を殺すのは良くないことだと!!!!!!!なので!!!!!!!シモラ達を私と共に!!!!!!!レジスタンスと共に!!!!!!!止めて頂きたいのです!!!!!!」
男は叫んだ後、シモラの手の上で深々と頭を下げる。
「だってさ。どうするよ?今俺が行ったらここを守る人間が居なくなるけど?」
『…いや、逆に言えば今が好機かもですぞ。』
「え?」
『あの男はレジスタンス。つまり反乱軍の一員だと仮定すると、シモラ軍は今は動いてない状態。さらに言えばシモラ軍は先のヴェアルとの戦いにて少なくとも消耗はしてるはずで、必ずヴェアルを倒すために何かしらの準備はしておく筈ですぞ。つまり今はシモラは動かない…』
「だから行っても大丈夫だと…」
『それに、いざとなったら試作機を試しますのでな。』
「なるほど…じゃあ付いていくだけ付いていくか…」
『あ、ヴェアルからは降りてくださいな。あなたが帰ってくるときには必ずしも直しておくので。』
「はいよ。」
呟いて俺はコックピットの中にある棚から拳銃を出すと、搭乗口を開く。
ヴェアルの手を搭乗口の前にやると、俺はそれに乗っかってシモラの搭乗口の近くに手を伸ばさせて、シモラの手の上に乗っかる。
拳銃をドナという男に向けると、男は両手を上げた。
「私は何も持っていませんよ。」
「まぁ、念の為な。それで?俺に協力して欲しいと?」
男は頷くと、俺は先に搭乗口に乗り込んでコックピットの副座席を展開。
「よっし!じゃあ行くぞ!」
銃を向けているとは思えない程明るい波長で言った
「ご協力。感謝します。」
男は怯えることもなく、手を上げたままコックピットに乗り込んでレバーを掴んだ。
そこにヴェアルを残し、シモラは旅立つ。
「おい、武器は持っていかないのか?」
「まぁ、それはあなた方へのお礼の品物として。」
空を舞う中、淡々とした口調で告げる。
俺は聞き流してモニターを再び見る。
「じゃあ、知っていることを全て言ってもらえるか?」
俺は持っている拳銃をちらつかせながら言うと、ドナは「わかりました。」と一言だけ言う。
「私達の土地、シモラは特に何の問題もありませんでした。例えば飢餓だとか、例えば厄災だとか、そういうのは特にありませんでした。
私は幼少期の頃、それはシモラ様のお陰だと思っていたからです。
例えば感染症が流行ったとしても感染症の流行は短かった。
食糧難になったとしても、直ぐに食料が、溢れる生活に戻れる。
全てシモラ様のお陰だと思った。
シモラ様は生きる人々を助けてくれる救済の神なんだとずっと思ってきた。
でも、本当の姿はそんなもんじゃなかった。
私は機械を弄るのが好きでやがて教会の整備員になりました。
しかし、これでシモラ様の元で働けると最初は思ってました。
でも、シモラ様が機械だと知って、私は酷く落ち込みました。
でも、それだけじゃなかった。
私が整備員になってから、しばらくして感染症が流行りました。
その時、シモラ達が出撃し何しに行ったのかと思うと、人間を連れてきたのです。
どうやら、あなた達の土地に住む人々だそうで、捕まえてきた目的は人々を実験台にして新しいワクチンを作る事だと。
私は…今まで人を救うシモラが戦争の為に使われ、そして非人道的な行動をする。
私には信じられなかった。」
「そこで、お前はこのシモラを盗んで一人で活動中って訳か?」
長い話にピリオドを打たせると、「まぁ、そういうことです。」とドナが言った。
「ですが、1つだけ間違えている事があります。」
「間違えていること?なんだそれ。」
「間違えていること。それは___」
ヴー!!!ヴー!!!!
すると、唐突に五月蝿い警報音が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「ちっ…!!!どうやら見つかってしまったようです!!」
「み、見つかった!?それって一体!!!」
すると、後ろ側にあるモニターにシモラが映し出される。
そのシモラには足が無く、足代わりなのか大型スラスターが付いており、戦闘機のような翼を背中のジェットパックに装備している。
おまけに両腕にはバルカン砲を備えており、射撃に特化したようにも見える。
「あ、あれは!?」
「あれはシモラ空中線仕様です!!!高速で空を駆ける言わば、鷹のような存在!!!!」
言いながら、ドナはペダルを踏み込んで速度を上げる。
「まずい!!!ここの空域は警備していないと思ったが、油断していた!!!!」
「お、おい!!!どんどん近付いてるぞ!!!!それに、この警報音って!!!!」
「ミサイルのロックオンがされた合図ですよ!!!!」
「だろうな!?!?」
すると、次の瞬間、シモラ空中戦仕様はバルカン砲を俺らに向けると、弾丸を放ってくる。
ダダダダダダダダダ!!!!!!!!!
雨のように弾丸が俺らのシモラに直撃。
空中であることもあり、衝撃が直に副座席に伝わる。
「被弾しているぞ!!!!!!」
「大丈夫です!!!!このシモラの装甲は戦車の一斉攻撃を食らっても数分は耐えられるので100mmバルカン砲を持つシモラならビクともしません!!!!」
ピピピピピピ!!!!!!!
「ミサイルはどうなんだよ!!!!!」
「ミサイルだと機体が爆発します!!!!」
「おいまじかよ!!!!!!なんで武器捨ててきたんだ!!!!!!」
言った途端、シモラ空中戦仕様からミサイルが放たれ、真っ直ぐにこちらへと向かう。
「く、来るぞ!!!!」
「くっ!!!!!」
その時だった。
レーザー上に新たな反応が現れたのは。
途端。
俺らとシモラ空中戦仕様との射線上に1つのシモラが割り入る。
そのシモラは盾を持っており、ミサイルを盾で受け止めると、前から来るシモラ空中戦仕様に対して、持っていた盾を投げつけた。
その数秒の出来事に呆気を取られる。
「言い忘れていましたね。1つだけ間違えていること_それは1人じゃないってことです。」
ザザッ…!砂嵐が鳴ると、まるで古いラジオのような音質の声が流れる。
『よぉ!ドナさん!大丈夫かい?』
「おかげさまでな。それよりも俺はてっきりお前らが空中戦仕様シモラを食い止めてくれると思ったんだが…どういうことだ?」
何か威圧的な態度でドナはマイクに向かって喋ると、通信からは『あー…』と何か不穏な前置きをする。
『実はだな…いやぁー!まぁ、想定外というか?作戦ではよぉ?俺らが反対側で暴れまくってシモラ引きつける話だったじゃねぇか?でも、ちょっと手違いで空中戦シモラが全機こっち側に現れちまってだなぁ…』
「つまり?」
『マップが壊れたせいでシモラがお前らを襲いに来るゾ♡』
「お前って奴は!!!!!!」
言いながらシステムモニターを叩きつけるドナ。
地味にブルッと肩が震える程に鉄の衝突音を鳴らす。
『ま、まぁまぁ、俺らが守ってやるからさっさと逃げなさんや。』
「………帰ったら罰を与える」
『うぅ…そりゃ後が怖いぜ…』
言うと、ドナは前方へとレバーを傾けつつペダルを踏み込むとスラスターを噴かせながら前方へと飛ぶ。
ピピピピピピ!!!!!!
瞬間、システムパネルには幾つもの機体の熱反応。
「おい!!これちょっとやばいんじゃないか!?」
「ッ…!!!」
ドナは黙り込みながらも、唇を噛むと「少し揺れます。気をつけてください。」
と言う。
そして、機体を横方向へ急に移動させると、先程までいた場所にシモラ空中戦仕様が現れる。
「きゅ、急に現れた!?」
「いえ。透明化です。シモラ空中戦仕様の一部には空の青色に限りなく近い色に変色させることの出来る機能を持っているものもいて、一見分かりづらいんですよ。」
「ま、まじかよ!!!って!!!俺ら今軍勢の上を飛んでないか!?」
システムパネルに写る別機体のアイコンの群衆。
それが現在の周りに表示される。
「えぇ。実にまずい状況です。」
すると、今度は下から弾丸の雨のような物が空に向かって上がる。
まるで光る雨が重力に逆らっているように見えるそれ。
いくつかの弾丸が搭乗口に当たっているのか、衝撃がコックピットに直接響く。
「これは…!!!」
「ったく!!!もう良い!!!変われ!!!」
俺はドナをコックピットから退かすと、レバーを握る。
「ちょ、ちょっと…!!!」
「オートマチックモード!!!!!!」
俺は言って後ろから操縦桿を取り出す。
操縦桿は俺の腕に貼り付き、俺は操縦桿を握る。
下にメインカメラを向けると、そこには少なくとも30機はいる大軍。
その内の4機がこちらに気づくと急上昇して片腕のバルカン砲を放つ。
バルカン砲が連なり、もはや1つの縄のようになって俺らを襲う。
しかし俺は空中で身を交わし、その弾丸らを避ける。
シモラ空中戦仕様はしばらくして、俺に弾が当たらないことを悟ったのかバルカン砲の備えている腕から棒のようなものを生やす。
電気をバチバチと鳴らせている所から見ると、電撃系の警棒のようなものだろうか。
俺はその一番近いシモラ空中戦仕様が上昇し、警棒を横へと広げると、シモラ空中戦仕様の内、一機がこちらへと向かって来る。
「蹴りのコマンドは!?」
「105です!!!」
俺は指を動かしてコマンドを入力し、タイミングを合わせて全てのボタンを握り込む。
ロックオンメインカメラの正面にいたシモラ空中戦仕様に向かって蹴りが放たれると、メインカメラが潰れ、さらに俺はペダルを踏み込んで足からスラスターを噴かせて吹っ飛ばす。
巻き込んで一機のシモラを地面に叩きつけた。
俺は次に違うペダルを踏み込んで一気に下降。
メインカメラを頼りに弾丸の雨の中を突き抜けると、再び「蹴り」のコマンドを打ち込んでから一機のシモラ空中戦仕様と同じ高度まで下がると全てのボタンを握り込んで蹴りを発動。
コックピットを潰し込み、シモラ空中戦仕様の腕をもぎ取る。
もぎ取った腕から配線のようなものが千切れ、シモラ動かないシモラ空中戦仕様を盾に俺はもう一機巻き添えにする。
「よし!!!全員倒した!!!」
「つ、強い…」
ペダルを踏み込んでスラスターから炎を噴かせる。
方向転換をすると、今度は何か空間の歪みのような物が見えた。
「ッ!!!」
俺は片方のペダルを踏み込んで、その場所から一回転してステルスモードのシモラ空中戦仕様の攻撃を回避。
引きちぎって置いたシモラ空中戦仕様の腕を投げつけると、バランスを崩して少し高度を落とすシモラ空中戦仕様。
俺は追撃をするべく「蹴り」のコマンドを打ち込んで隠れていたシモラ空中戦仕様に向かって放ち、トドメにスラスターを全開撃ち込む。
追撃を食らい地面に叩きつけられると、俺はそれをモニター越しに見ながらその場から去った。
「ほら、終わった。」
言いつつ、マニュアルモードに操縦を変えてコックピットから立ち上がる。
「ま、まさか…あれを1人で…」
「ほら、早く代わってくれないか?少し疲れたんだ。」
と言いつつ、拳銃を突き付けながら座席を交代する。
「今までにヴェアル県側に機体を使用したという記録はここ15年無かった…貴方は…一体…」
「俺か?俺は…」
青い空、揺らぐ摩天楼、鳴り響く時計、青い光、黒い雨、窓越しに手を合わせる少女。
色々な光景を思い出し、そして飲み込む。
「まぁ、昔の亡霊だな。」
しばらく飛行したシモラはそびえ立つ壁の近くに着陸する。
壁にはシモラの機体にも貼ってあるマークのようなものがあった。
「こっちです。」
そして、壁に近づくと壁の中にツマミのような物を見つけ、それを回す。
すると、ロックが解除されたのか、壁の中へと続くカタパルトのようなものがあった。
ドナは、それに後ろ向きで足をはめると、カタパルトは後退を始めた。
しばらくすると、一気に機体はエレベーターのように下がって行き、遂には本拠地と思わしき場所へと辿り着いた。
モニターには格納庫が映っており、数人の人間がその格納庫に納められるシモラを見守る。
「ここが基地か。じゃあ、降りますか。」
このときになって俺はようやく銃をスラスターへと納める。
ドナはシステムパネルの下にある搭乗口開閉スイッチを押して搭乗口を開くと、そこには数人のエンジニアのような人が居た。
「お疲れ様です。ドナ隊長。」
「ああ。リーナもお疲れだ。」
搭乗口から出ると、真っ先にいたのは赤い髪の少女だった。
少女は少し静かで大人っぽい…いや、大人しい雰囲気はあるが、顔や身長がまだ子供だ。
「あ、あんな子供まで…」
俺は歩きながら呟く。
「リーナは、両親をシモラ達に殺されてるんです。」
「え?それって…」
ドナは少し黙ると、再び口を開く。
「…実は、彼女の両親は飛行中に飛行機をシモラで落とされているんです。」
「な、なるほど…」
「では、私達の作戦を話します。」
暗い空間の中。
モニター一体型の机に座ると、ドナはそれに体重を乗せた。
「まず、これを見てください。」
言いつつドナは机にある画像を表示させた。
それは、シモラ県の地図のようだ。
「まず、私達が居るのがここです。」
ドナは北側の壁の一部を指差す。
「そして、教会…要するに本拠地があるがここです。」
県の中央にある城のようなものを指差す。
「私達はどうすればシモラ県の軍を倒す事ができるかを考えました。そして思いついたのが、ダートラクス計画です。」
だ、ダートラクス計画?
何か、カッコ良さげな単語に引かれつつも「そ、それは一体、どんな計画なんだ?」と聞く。
すると今度はドナは机を少し操作して、地図上に赤色や青色、そして緑色のマークを表示する。
マークは壁の中に収まらず、あらゆる所に分布しており規則性が掴めず、俺は「こ、これは?」と質問する。
「これはですね、工場等の位置を表しています。」
「こ、工場の位置を?」
「はい。赤色が第一次関連工場。青色は機体を組み立てる第二次関連工場。緑色は武器を製造する第二次関連工場です。」
な、なるほど…と呟き、俺はある事を思う。
「まさか…この工場を制圧するってことか…?」
「いえ、制圧するのは赤色の第一次関連工場だけです。部品を作る工場では武器の部品の製造も行っています。なので第一次関連工場を制圧、もしくは破壊をしてベースを崩し、機体を製作不能にします。ですが…」
と、言葉を詰まらせるドナ。
案外こういうドナは初めて見た。 まぁ、出会ったのが数時間前なのだが…
「ですが、やはり教会の本拠地並みに機体が多く、私達らでは突破が出来なかったのです。私達は国を背いた反逆者。作業員として紛れ込むのも難しく…」
「それで、俺と協力して工場を制圧したいと。」
ドナは頷く。
俺は机の上を見た。
だが、赤いマークの工場…見た所、15カ所はある。
「まさか…それを全部…?」
「まぁ、できたら良いと思いますね。でも、多分無理です。」
「まぁ、そうだろうな。じゃあどうするんだ?」
するとドナは机をタップで操作し、2つの大きな工場を表示させた。
「この工場を潰します。」
「な、なるほど…この工場は西方面と東方面で一番でかい工場か?」
「はい。ここを同時に潰す。そうすれば機体の製造を少しは止められるはずです。これがプランAですね。そしてプランBは…………」
とても長い話を聞き終わった後、俺は用意されていた客室のベットにて寝っ転がる。
どうやらこの基地は放棄された基地らしく、設備は整ってるがその存在を知る者は少ないのだとか。
「そういえば…シモラ国ってどんな場所なんだろうか…」
俺は起き上がって、まるで牢屋のように貧相な部屋から出た。
「そのまま!!!腹筋残り5000回だ!!!!」
「き、キツイってぇ!!!半分にしてくれってぇ!!!」
外に出ると、道端で腹筋をさせられている赤い長い髪を整えた男とドナがいた。
ドナは教官のようにその赤い男を叱咤する。
「えーっと…ドナ?」
「はい。なんでしょうか?」
するとさっきまでの怒号とは一変した落ち着いた口調に戻る。
「ひゅ〜休k「誰が休んで良いと言った!!!!!!立て!!!!!!!お前は4998回腹筋をするのだ!!!!!たとえ死んでもやめるではない!!!!!!」
「ああああああああ…!!!!!!」
そんな光景の中、ドナは1つ咳をすると又もや落ち着いた口調に戻る。
「言っていませんでしたね。こいつはさっき私らを危険に晒した容疑者ことヤガーです。それで、どうしましたか?」
「あぁ。ちょっと外に散歩してみたいんだが…良いか?」
「外に散歩?なるほど、壁の中をみてきたいとおうことですか?」
「あ!そうそう!見てきたいんだが、どうやったら行ける?」
「なら、今から人を付いて行かせるのでその案内に従ってください。」
ドナは言うと、ポケットからガラケーの様なものを出した。
「あぁ。俺だ。少し頼みがあるんだが良いか?お客様を壁の中に案内させて貰いたい。ああ。よろしく頼む。」
言うと、ドナは携帯を仕舞って向き直る。
「さっきまで居た格納庫の方に人を待たせました。多分、行けば分かると思います。」
「お、ありがとうな。じゃあ」
礼を告げると振り返って俺は廊下を進む。
廊下は格納庫に繋がっており、丸型の窓が取り付けられている扉から格納庫へと出る。
「貴方がお客様ですか?」
すると、そこには先程の少女ことリールと、男が立っていた。
「へー、案外細身なんだな!」
「ヤグタ様…あまりそういう事は…」
「別に良いだろ?リールだってそう思わないか?」
ヤグタと呼ばれたその男はヘラヘラと笑うと、その大柄な身体でこちらへと近付く。
「あんたが客だよな。名前はなんていうんだ?」
「俺の名前はラムダだ。よろしく。」
言いながら手を出すと、ヤグタは俺の手を振り払う。
「ヤグタ様がすいません。私の名前はリールです。そして、この大柄な日焼け野郎がヤグタ様。あ、私は様をつけていますがラムダ様はヤグタと呼んでやってください。」
「お、おう…」
「さぁ、行きましょう。ヤグタ様、ラムダ様。」
言われて俺はリールが歩き始めると共にそれについて行く。
格納庫から出て、しばらく廊下を通った先にあったエレベーターに乗り込む。
「ここから地上に上がります。地上では今は祭りが開かれてると思いますが、行きますか?」
「うぉ?祭りかぁ!いいねぇ!行こうぜ行こうぜ!!」
一番に騒ぐヤグタ。こういうのには慣れてないんだろうか。
でも、たしかに祭りは最近行ってなかったな。
まぁ、色々あったし…
「そうだな。パーっと息抜きぐらいはしておかなくちゃな。」
さてと…フリフリポテトが久しぶりに食いたくなってきた。
エレベーターが最上階に着いたらしく、停止すると目の前の扉が開き、大きなホテルのエレベーターに繫がる。
「こ、ここは…」
「ここはジュエルホテルです。貴族の方や、富豪の方が主に宿泊する宿泊施設です。このエレベーターは色々な所に繋がっていて、このホテル以外にも色々な場所のエレベーターに繋がっています。」
すると、まるで悪態をつくような声で、「おい、リール!お前…組織の秘密バラ撒いてんじゃねぇよ?」とヤグタがリールに対してガンを飛ばす。
「すいません。これくらいは把握して置かなければ、いざという時に不便かと思いましたので。
」
「ったく…今度から気をつけろよ…」
「な、なぁもしかしてあれ…」
俺は言いながら、目の前のガラス扉の突き抜けたその向こうに広がる屋台の列があった。
「うぉぉ!!」
テンションが上がり、俺はつい声を出す。
「なんだ?始めてみるのか?」
ヤグタはなんだか不思議そうに顔を伺うが、俺は首を振って
「いいや?懐かしいんだ。あまりにもな。」
と返す。
まさか、殆どそのままの風景が広がってるとは…
「ヴェアル県にもお祭りがあるのですね。」
「あー...まぁな。今はどうかしらないけれど…昔はあった。」
「そんな事よりも早く行こうぜ?俺は腹が減ってんだよ!」
「わかりましたよ…ヤグタ様」
俺達は扉から出ると、大きな通りが横に走っていた。
俺はその通りに並ぶ屋台の数々を見て、心が躍る。
「毎年見るもんだが、祭りってのは良いなぁ…!女がいっぱい居てよぉ…」
「ヤグタ様は連れて来なかった方が良さそうでした…」
「あ?リール今何つった?」
「いえ?何でもないですよ。」
リールは少し斜め下を見て視線を反らした。
「まぁ、二人とも早く行こうぜ!」
人の賑わいの中、屋台の看板を掲げる店主たち。
祭りという特殊なイベントを生かしてここぞとばかりにイチャイチャするカップル。
ヴェアル県何かとは違い、ここはどうやら戦争のという言葉がないように見えた。
「平和だな。」
「そうですね…ヴェアル県の人達は、この平和を知らないんでしょうか…?」
「おい!リールお前!」
ヤグタがリールを叱ろうとするが、それは多分、俺らの事を同情して言っている言葉だろうと感じ取り、ヤグタを片手で止める。
「俺はあんまり分からないけど、地域によってそれぞれの幸せがある。戦争はよくないが、戦争がの時はその時だ。諦めず、1秒1秒を精一杯生きる。平和は知らないかもだが、幸せの味くらいはきっと知ってるぞ」
言うと、リールは「でも、戦争はよくないです…誰かが止めないと…」と呟く。
「それはもちろんだ。」
それに応えた。
「ちなみに、今日は何の祭りなんだ?」
「そんなも知らねぇのか…?いいか?この祭りは神、シモラの運命の人と呼ばれるジーニと出会ったと言われる日なんだよ。まぁ、シモラとジーニは結ばれず、ジーニが先に戦死してしまうんだがな。」
シモラ…そういえば、シモラとか、ヴェアルとかあまり気にしてなかったが、一体どんな宗教なんだか…
今度アダに聞いてみるか。
「お二方、これをどうぞ。」
すると、リールは何処から買ってきたのか、丸い茶色をした球状の甘い匂いのするお菓子を持ってきた。
「リール、それはなんだ?」
ヤグタが顎でそれを示すとリールが「ベビーカステラです。」と応えた。
「じゃあ、1つ貰わせてもらう」
俺はそのベビーカステラなるものを受け取ると、口にくわえた。
すると、甘い匂いと味が口のなかに広がる。
今までに食べたことのないスイーツに俺は「う、うまぁ…!」と感嘆。
「ちょ、それもっとくれ!!」
俺はリールからそのベビーカステラを貰うとそれを次々にそれを口の中に放り込む。
「言うと、リールはその紙袋を俺に渡す。」
「う、うめぇ!!!」
「よく食うな…おめぇは…」
パンパンパンパン!!!!!!
すると、銃声の様な音が空に響く。
「こ、これは!?」
俺もベビーカステラと一緒に伏せようとするが、その前にヤグタが、
「あぁ。花火だな。」と言った。
「花火?なぜそれを今?」
「祭りといったらパレートがあるんだよ。ほら、あれだ。」
ヤグタは今度道の向こうにある、シモラの機体の乗った車を指差す。
タイヤの付いている形式の車。
「あれは…シモラか…」
すると、シモラはその車に乗ったまま、民衆に向かって手を振る。
「う、動いた!?だ、大丈夫なのか!?」
「あ?ああ。ああいうシモラはパレード様に武装解除されてんだよ。害はねぇよ。」
「そ、そうなのか。」
すると、シモラは手を振るのをやめると、今度はその車の上に乗る女神様の様な衣装を着た少女に手を伸ばす。
少女はその手に乗ると、シモラに持ち上げられ、民衆に向かって手を振った。
「あんなこともするのか…」
俺は思った瞬間、その少女がこちらへと向く。
少女の顔は美少女といった可愛らしい顔立ちをしており、元気のありそうな笑顔を皆に向けている。
「ん…?で、デリカ…?」
そして、その少女には見覚えがあった。
とてつもなく、見覚えが。
俺はその場にベビーカステラを落とすと、人混みの中を進む。
「で、デリカ!!!デリカ!!!!」
俺は叫びつつ、シモラに向かう。
「な、なんだお前!!!」
途中、車を包むようにボディガードの様な人物が居たが関係無い。
俺はそのボディガードを飛び越えて、車に乗る。
「で、デリカ!!!!」
すると、デリカもこちらに気づいたのか、目を大きくして俺を見る。
「おい!!!お前!!!神聖なるシモラ様に近付くな!!!!」
「ま、待ってくれ!!!デリカが!!!!」
「デリカ様はお前に興味が無いのだ!さっさと大人しくしろ!!!」
「待って!!!」
すると、空からデリカの声がした。
その声に俺はあの時の事を思い出した。
「その人の事…優しくしてあげて…?」
彼女は聖母ように優しく微笑んだ。
ヴェアル神記 最悪な贈り物@萌えを求めて勉強中 @Worstgift37564
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