EP:02

Ep:02

目の前の化け物と睨み合う。

体高はおそらく2メートルほど。全長ではなく、純粋に高さだけで僕を見下ろせる。

そんな化け狼が低く身を構えたまま、こちらの出方を窺っていた。


これだけの体格差があればすぐにでも飛びかかってきそうなものだ。

それでも動かないのは僕が持っている金属棒を警戒しているのかもしれない。慎重に機を伺っているようだった。


……まじで、ついてないな。

勝てる気がしない。

いや、でも諦めたらそこで試合終了ってバスケの人も言ってたし。

きっと僕は主人公に違いない。タイムスリップっぽいこともしたし。

だったら、突然スーパーパワーに目覚める展開があってもいいはずだ。

……よし、いける。きっといける。


僕は、刀を構えるように金属棒の切っ先を相手の鼻筋へ向ける。

振り上げて体を大きく見せる手も考えたが、この相手には意味がないだろう。

腹を括って、戦う覚悟を決める。


その瞬間、化け狼が跳ねた。

右手を振り上げ、一直線に迫ってくる。


僕は後ろに退くのではなく、あえて前に転がるようにして右側面へ回避した。

狼パンチをやりすごし、脇腹を狙って金属棒を振るうが、化け狼は体をひねってのしかかってくる。

再び飛び込むようにして懐に潜り、間一髪でかわす。


――こいつ、でかいくせに速すぎる。


もし前の身体、二徹明けの社畜ボディだったら、今ごろ間違いなく死んでいた。


くそっ、どうする……

おそらく、距離を取ろうとした瞬間に殺される。

人間の体は、後ろへ素早く動けるようにはできていない。

こいつの突進速度の方が圧倒的に上だ。

だから、こうして転がって側面に逃げるしかないけど……

このままじゃジリ貧だ。

いつか避けるのも限界がくる。

どこかで反撃に出なきゃいけない。

一度でも捕まれば、まず助からない。


本当は正面から鼻先を叩きたい。

流石に鼻を思いっきり殴れば大きな隙ができるはずだ。

けれど、それには相手と向き合う必要がある。

もし一連の攻撃で仕留めきれなければ、その時点で僕が終わる。

選択肢としては、あまりにリスキーだった。


ならば――


のしかかってきたタイミングを狙い、再び転がりつつ、化け狼の右後ろ足のくるぶしに金属棒を叩きつけた。


「グギャァゥ!」


化け狼が叫ぶ。ダメージは通ったようだ。

だが、動きが鈍る様子はない。

むしろ怒りに駆られたのか、さらに激しく飛びかかってくる。


急所である関節を狙ったとはいえ、一度叩いただけでは大したダメージにはならないようだ。

僕は冷静に動きを見極め、再度のしかかりにあわせて側面に回り込み、同じ箇所を狙って金属棒を振り下ろす。


「グギャアアアアウッ!!」


……どうだ、化け狼。

二発目はさすがに効いただろ?

少し卑怯かもしれないが、これは殺し合いだ。許せよ。


僕はあえてニヤリと笑ってみせる。

少しでも威圧感を与えられるよう、余裕を装って。


「おい、化け狼。お前の足が壊れるのが先か、僕が捕まるのが先か――根比べといこうじゃないか」


――――――――


何度避けて、何度叩きつけただろう。

僕の体力は、もはや限界寸前。

化け狼も、右足を明らかに引きずっている。


正直な話、何発か足を殴れば逃げてくれると思ってた。

だってさ、野生動物にとって脚は命じゃん? 獲物が獲れなくなる=死じゃん?

なら、ある程度で逃げると思うじゃん?


……でも、こいつ逃げねぇのよ。

意地になってるのか?

マジでついてねぇ。


とはいえ、右後ろ足はほぼ潰した。勝ち確……と言いたいところだけど、現実はそんなに甘くない。

こっちはまだ不利。

脚を1本潰しただけじゃ逃げきれないし、倒すには頭か首を狙うしかない。

あるいは、反対の脚を潰す手もあるが……

こいつ、右利きっぽくて、左側に回り込むのが難しいんだよなぁー。


さて、どうしたものか――。

……スーパーパワー目覚めないかなぁ。

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blanka - 無明の刃 火勾あか - Aka Kakou @akairo-no-magatama

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