blanka - 無明の刃

火勾あか - Aka Kakou

第一章

EP:01

ここは……どこだろうか?

辺りを見回してみるけど、やっぱり全く見覚えがない。

……どう見ても、古びた工場跡みたいな場所。しかも、何年も使われてない感じで、あちこちがボロボロになってる。

僕は今、錆びた金属の廃材……多分、機械か何かの部品の上に腰掛けてるらしい。


薄暗いけど、前方から差し込む光のおかげで、どうにか周囲の様子はわかる。


……一体、なんで僕はこんなところにいるんだ?

僕こと神崎咲夜(26歳)はついさっきまで、二徹明けの残業を終えて、フラフラしながら家に帰ってたはずなんだけど。

記憶があるのは、最寄りの押上駅にそろそろ着くなーってとこまで。そこから先が、やけに曖昧なんだよね。


もしかして、あまりの疲労で夢遊病みたいに、こんなとこまで来ちゃった……?

だとしたら、実家暮らしの僕が家族にどれだけ心配かけてるか……考えるだけで胃が痛い。


ひとまず、連絡だけでも入れようとポケットを探ってみる。

……が。

スマホが、無い。っていうか、ポケット自体が無い。


よく見れば、着てる服も全然見覚えがないし、いつも肌身離さず持ってた仕事カバンも近くに見当たらない。


……うん。

これ、ますますヤバいんじゃない?


もしかして、どこかに泊まったとか? 記憶ないけど?

でもさ……そこで気づいた。


体が……軽い。

二徹明けのクタクタ感がまるでないどころか、10代の頃ですら感じたことないくらい軽い。

試しに立ち上がって体を動かしてみると、自分の身体とは思えないくらいスムーズに動く。


……え、なにこれ。ちょっと嬉しいんだけど?


いや、ダメだダメだ。浮かれてる場合じゃない。

状況としては、知らない場所に知らない服、スマホも財布も無し。

便利に塗れた贅沢ライフを送ってきた現代人としては、だいぶ絶望寄りだよね。


でもまあ……できることは限られてるし。

とりあえず、外に出てみよう。

人がいれば、尋ねれば現在地もすぐわかるだし!


そう決めて、僕はこの好調すぎる体にほんの少し笑みを浮かべながら、廃工場の出口と思しき場所へ向かう。


――――――――――


さて……これは、どうしたものか。


本来ならテンパって泣き崩れてもおかしくない状況なのに、案外冷静な自分に内心で拍手を送りつつ、自問自答する。


工場の外に出てみたら、はいびっくり。

文明、崩壊してましたー!


……何を言ってるか、わからない?

大丈夫、僕もわかってない。


目の前に広がってたのは、倒壊したビル群と、それを覆い尽くすように生い茂る植物たち。

完全に、文明崩壊後の世界って感じ。


自然災害……って線も考えたけど、この植物の成長具合を見るに、崩壊してから相当な年月が経ってるっぽい。


え、これ……タイムスリップ?

もしかして、僕……そういう系の主人公だった……?


うん、現実逃避し始めてるなーって自覚はある。


――――――


というわけで!


咲夜くん、探検家にジョブチェンジしましたー!!

社畜から一気にサバイバルライフへ。人生ってほんと、何が起きるかわからないね!!


さっきから周囲を探索してるんだけど、これがまた、人っ子一人いない。

でね、たまに聞こえるの。……獣の鳴き声。


姿は見えないけど、声だけで察せる……猛獣感がすごい。

これ、絶対ヤバいやつだよ。


僕ね、一応武術の心得はあるから、酔っ払いとかチンピラ相手なら、まあまあやれる自信あるよ?

でも野生動物は話が違うでしょ!?

しかも猛獣系って!

動物園から逃げ出して繁殖しちゃった説とか……勘弁してよほんと。


そんなことを脳内でグチグチ言いながら、せめてもの護身具として拾った金属の棒を肩にかついで、体感10分くらい探索をしていたその時――


はーい、終了のお知らせでーす☆


詰みました。

死にます。

対ありでした!!


……目の前にいるのは、四つ目の、クソでっかい狼みたいな化け物。

誰か助けてください。ほんとに……。





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