視覚と感情の濃密な重奏に圧倒される作品。
旧首都リーステルトの街並みは、単なる背景ではなく、感情を染めるフィルターでもあります。
ルチアの「感情の色が見える目」という設定は、物語に独特の詩情と緊張感をもたらし、視覚と感覚を通して世界の裏側に立つ。
文章のリズムは抑揚のあるフレーズで構成され、短い独白と情景描写が交互に差し込まれることで、静かに張り詰めた緊張感が持続します。
会話部分の語尾や間の取り方も、キャラクターの距離感や関係性を繊細に伝えるテクニックとして機能して、ルチアとカイのやり取りに軽妙なリズムが生まれています。
テーマの重さと個人の物語が交錯する構造も巧みで、魔法暴走と政治的圧迫、スラムの現実と個人の選択が、単なるファンタジー的設定にとどまらず、生々しい息吹を伝える舞台となっています。
全体として、暗く退廃的な世界観と鮮烈な感情描写が絶妙に交差し、キャラクターと街の物語が重なり合い、文学的なテクニックを駆使したファンタジー作品として、単なる冒険譚に終わらない深みがあります。物語の展開を追う楽しみと同時に、言葉の音と色彩の響きを味わう楽しみも提供してくれる、非常に贅沢な一編。
──絶望の街で、感情〈いろ〉だけがまだ生きている。
「魔法弾圧×軍政×スチームパンク」の世界で、感情が“色”として見える盲目の少女・ルチア。
裏社会で生きる彼女が出会ったのは、両腕を失い機械義肢に変えられた元男娼“シー”。
滅びた魔法、暴力と監視が支配する都市スラムで、2人は“感情”をめぐる小さな選択から、やがて世界の深層へと巻き込まれていく――。
とりわけ印象的なのは、“色”で他者の心を読み取るヒロイン視点の描写。
「絶望」「優しさ」「嘘」など、すべてが色で表現され、退廃したスラムの情景や登場人物の本音が鮮やかに浮かび上がる。
壊れていながらもどこか人間味を残すシー、彼を“拾う”ルチアの優しさと覚悟も胸に刺さるポイントです。
物語は、“感情”が武器にも呪いにもなるディストピアで、静かな絶望と、ほのかな希望が交差するサスペンス。
2人の行く先にどんな光が差すのか、続きが気になって仕方ない一作です。